そんなジモンが、これまでの人生で熊と接近遭遇し、戦闘に及んだ通算戦績は4戦4勝。
「ガッガガガルルルルッッーーーー!! ガルルルルッーーーーーーーーーーッ!!」
横隔膜を鍛え、独自に習得した発声法によるライオンの咆哮(ほうこう)の如き雄叫びで、熊を敵前逃亡させたらしいのだが、これらの話もご多分に漏れず自己申告であり、戦歴すべて、「山の中で」「不戦勝のみ」「現場を目撃した同行者はいない」という、但し書きが添えられる。
そう言えば、芸人モードのジモンは、「オオ、オオイッ!!」と、必要以上に大きな声で、抑揚のない棒ツッコミを繰り返すのが常だが、実はこれは、「猛獣撃退メソッドのバラエティ番組応用形なのだよ! フフ」……とのことである。
つまりテレビ番組出演中でさえ、常に仮想敵を想定し行動するのは、ジモンの習性なのである。
さて、丸腰でも斯様に地上最強な男に、武器や防具を与えたらどうなるのか?
ジモンは「もし闘わば……」と妄想に妄想を繰り返し、アメリカのプロガンマン、早撃ち世界一のマーク・リードとの対決を一方的に脳内で夢想しながら、30年間毎日、モデルガンで早抜き早撃ちの訓練を続け、今や銃を構えたら日本に敵はいないと胸を張る。
もちろん、仮想敵はクラシカルな相手ばかりだけではない。時代性に鑑み、テロリスト相手の戦闘も想定済みだ。
毒ガス攻撃に備え、ガスマスクを愛車に常備。また、過剰防衛を防ぐ目的で、敵の目を眩ませる“攻撃光”付き懐中電灯も常に胸に忍ばせ、それを収めたポシェットは常に左胸に配置する。当然、狙撃された際に弾丸が心臓を貫通するのを防ぐためだ。
さらには念には念を入れ、ポシェットには分厚いポケット辞書も同梱携行しているのだが、そこにもこだわりがあり、必ず和英ではなく英和辞書でなければならないとする。
その理由は、「英和辞書のほうがページ数が多いから!」。
……などなど全てがひとりよがりの妄言、本番前の楽屋で独演会モードであったが、最後に、
「でもさ、この話って、視聴者が引くから『テレビでは厳禁』って他のメンバーに言われてるの。そもそもマニアックで面白くないだろ?」
と謙遜するジモンに、その場に居合わせた芸人たちは「面白すぎます!」と絶賛。
「生放送で話してくださいよ!」と皆で持ち上げた。
上機嫌のジモンを神輿(みこし)に乗せたまま、番組の生討論がスタートした……のだが、カメラを向けられると、なぜか一転して沈黙。根本的に芸人としてのトークスキルが史上最弱レベルだったため、終始、硬直したまま、生放送が終わってしまった。
しかし、楽屋に戻るや、
「いやぁ、ついつい調子に乗って喋るところだったけど、オッ俺の特訓内容と実力が敵に悟られなくて良かったよ!」
と嘯(うそぶ)き、飄々(ひょうひょう)と現場から立ち去ったのだった。