2022年11月に公開され、動員1100万人超、興収147億円超を記録した、新海誠監督による劇場アニメ『すずめの戸締まり』。歴代興収ランキング14位にランクインし、中国と韓国では日本映画興収第1位に輝くほどのメガヒットとなった。

 新海誠監督に、4月から公開が始まったアメリカでの反応、創作におけるグローバルな視点の必要性、2023年が舞台の『すずめの戸締まり』でコロナを直接的に描かなかった理由について、話を聞いた。(全2回の2回目/最初から読む

新海誠監督 ©山元茂樹/文藝春秋

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アメリカでの反応は…アジアに比べたら「まだまだ」

ーー欧米における日本アニメの存在感についての話が出ましたが、4月12日からアメリカでも『すずめの戸締まり』が公開されました。反応はどうでしょうか?

新海誠監督(以下、新海) 中国、韓国と同じように、アメリカにも熱いファンの方々はいるんですよ。ただ、分母の数が圧倒的に小さいですね。

 そうしたなかでも「週刊少年ジャンプ」のIP(Intellectual Property=知的財産)ものは、状況がずいぶんと変わってきましたね。コロナ禍もあって、この3年で世界中の人が一気に配信を見るようになって、『鬼滅の刃』を筆頭に日本のアニメーションが日本以外の国の人々に発見されて人気を集めたんじゃないかと思います。

「週刊少年ジャンプ」系に限らず、漫画原作でテレビ・シリーズになっているIPものは、北米でも存在感がどんどん増してきています。さっきも言いましたが、それでもアジアに比べたらそこまでの大きさではない。ましてや僕の作品なんか、まだまだマイナーでマイノリティのためのものといった位置付けになっていますね。

ーー『君の名は。』以降、監督の作品は海外で大きく公開されていますそれゆえにテーマやプロットの構築、キャラクターの造形などで、国外の観客を意識しているところはありますか。

新海 『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』に関しては、僕のなかではグローバルへの意識はほとんどゼロ。一切考えていないです。「日本で作る日本人が見るためのアニメーションを作ろう」と思って作っていて、徹底的にローカルなものにしようと意識しています。

 グローバルなものは、すでにハリウッドや韓国がとてもうまくやっていますよね。最初からグローバルを見据えて、インクルージョンとダイバーシティをしっかり組み込んだ制作体制で、作品を当てている成功例があります。それはとてもすごいことですが、一方で、僕たちがそれと同じ方向を向くのはすこし違うんじゃないかと。

 そうじゃなくて、徹底的にローカルなものを作ろうと思っています。ローカルであっても、その足元の地面をずっと掘っていけば、地球の反対側に穴が通じることもあるかもしれない。そうやって他の国の人が見てくれることもある。国は違っても同じ人間だから、根っこでなにか伝わったり、響いたりするわけですよね。

 もちろん、日本以外の方にも見ていただきたいので、配給してくれている東宝や僕らの会社(コミックス・ウェーブ・フィルム)の海外担当が、「海外向けのタイトルをどうしようか」とか努力してくれています。ただ作品そのものの作り方は、海外を意識していませんね。

©山元茂樹/文藝春秋

コロナ禍をほとんど感じさせない内容にしたワケ

ーー作品の時事性についてもお聞きしたいのですが、『すずめの戸締まり』は劇中のセリフから察するに2023年が舞台ですね。そうなると、どこかでコロナを意識せざるをえなかったのではないかと。とはいえ、主要キャラクターのマスク姿が多いとビジュアル的に映えませんし。

新海 いろいろと考えました。『すずめ』の企画を考えはじめたのが2020年の頭で、ちょうどコロナというものが世間で騒がれ始めたタイミングでした。そして企画書を書き上げたのが2020年の4月で、今度は東京で緊急事態宣言の出るタイミングで、制作期間がコロナ禍と完全に重なっていたんです。