思えば新井はずっとそうだった
その「麦のように生きろ」というメッセージは、ゲンの父親のモデルである中沢啓治さんのお父さんが言った言葉。マンガの中のセリフでも「元(ゲン)、お前は麦になれ。厳しい冬に青い芽を出し、踏まれて踏まれて強く大地に根を張り、まっすぐに伸びて実をつける麦になるんじゃ」と書かれている。
思えば新井はずっとそうだった。現役時代、下手くそでも、三振をしまくっても、結果が出なくても、ゲンのように元気に、懸命に野球と向き合った。そしていまはカープの監督となり、チームを「家族」と言い、監督というよりもみんなのお兄さんのような存在でチームをけん引している。名監督のようにどっしりはしていない。試合中、あまりに興奮したり喜んだりしすぎて、藤井ヘッドコーチにツッコまれ「あっ」と冷静さを取り戻したりする。審判にリクエストを要求するも断られ、苦笑いをしながら恥かしそうな顔を見せたりする。プロ野球の監督像とはあまりにかけ離れているが、それが「新井貴浩」なのである。
カープが負けた時、ピッチャーが失点した時、得点圏にランナーを置く場面で打てなかった時、予想と違い采配が裏目に出た時。TwitterなどのSNSで激しく非難する声があがることが多々ある。もちろん私自身もそのような感情になったりする。しかし、新井は違う。たとえ望むような結果にならなくても、手を叩いて前を向き、負け試合であっても必ず前向きなコメントを言ってくれる。
ゲンは元気の元。どんな逆境の中にあっても、元気に、明るく、たくましく生きた少年・ゲン。それは、まさに新井そのものと言えるのではないだろうか。阪神からカープに復帰した新井は、カープに元気と強さをくれた。3連覇の原動力となった。監督としてはまだ未熟かもしれないが、彼の前向きな姿勢は、いつかきっと大きな実をつけた麦になり、チームと私たちを歓喜の秋に連れて行ってくれると私は信じている。だから、腹が立った時は画面に映るベンチの新井を見てほしい。中継を観戦できずテキスト速報などを見ている場合は、新井の顔を想像してほしい。そこには、どんな時にも選手をねぎらい、守り続ける新井の姿があるはずだ。広島で生まれ、子ども時代には旧市民球場で大好きなカープを応援して育った新井。彼の前向きな姿勢は、ある意味では「私たちファンのあるべき姿」なのかもしれない。
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