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「車が壁に衝突する感じ」外野のスペシャリスト、元中日・英智が語る“人工芝とダイビングキャッチ”

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/06/02

 現在のナゴヤ球場は、公式戦が繰り広げられていた古き良き時代のスタジアムの形状とは少し違い、変化しています。

 まずフィールド内は両翼100m、センターの深さ122mに広げられています。フェンスの高さも4.8mと、これまた1軍のバンテリンドームがそのまま再現されていて、ほぼ同じ設定に作り変えられています。この広さを2軍の時から体験できることは非常に大きなメリットだと思います。

 バンテリンドームのようにグランド内は人工芝ではなく、内野ゾーンは土、外野は芝生と昔のままです。そこには変更は見られません。

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 個人的に、2軍の地で汗を流す選手の体のことを考えると、そこは全面人工芝に変更せず、そのままで良いと感じています(資金の面からしても大変ですから)。

 これから成長していく若手はともかく、再起をかける中堅やベテラン、さらには怪我から復帰を目指す選手たちにとって、土の内野、芝生の外野はたくさんの反復練習をする上で、体への負担を軽減してくれますから、それぞれ人工芝ではない方が有難いのです。

 人工芝ですと下半身の疲労も溜まりやすいですし、膝や足首の怪我のリスクも上がります。ゴロの跳ね方においても、人工芝に慣れ過ぎてしまうと、ついつい楽をしてしまいがちです。

 その点、土のグランドですと、より良いバウンドで捕るために足を運ばなければなりませんから、体力的にも強化できますし、技術的の面からみてもレベルを上げる際にはとても助かるのです。

現役時代の筆者・英智 ©共同通信社

着地したときは大破……本当は恐ろしいダイビングキャッチ

 そして私の守っていた外野についてです。

 自分がプレーしていた頃のバンテリンドーム(昔のナゴヤドーム)は、全面人工芝でした。ところが、今の人工芝とは異なっていたのです。

 現在の砂とゴムチップの埋め込んである柔らかな感触のものとは違い、とてもハードな形状だったのです。スタンドから観てる分には、さほど違いは感じないかもしれませんが、実際に飛び込んで捕球でもしようものなら、以前の人工芝ですと身体が大変なことになってました。

 試合中に打者がスイングをしてバットにボールが触れ、そのボールが空中に飛び出した瞬間には、おおよそこの打球は捕れるのか捕れないのか分かります。

 もし捕れたとしてもギリギリだろうと思ってスタートを切った時は、ダイビングするかもしれないと予測して、覚悟して走っていきます。

 そして、いざ捕球する球際では、獲物を追う動物のように目標のボールしか目に入っていませんから、考える間もなく本能的にダイビングしてしまっているので、気がついたら体が空中に浮いている状態です。

 そして見事、ナイスプレーの捕球ができれば、スタンドの皆さんから拍手と歓声を浴びて、私が最も輝ける最高の場面となるはずなのですが……。

 実際はと言うと、ダイビングした直後から嬉しい気持ちなどではなく、「あー、やってしまったー」と何とも言えない重だるい感情が芽生え始めてしまっているのです。

 天然芝なら、全速力で走り、ダイビングキャッチを試みて滑り込む際、身体が地面に触れた時、芝生が緩やかにそのスピードを受け止めてくれて、滑らかに地面を滑る少しの時間が作られますので、身体へのダメージは正直そこまで感じません。

 当然、捕球直後でも素直に喜べています。心へのダメージもありません。

 しかし、これが一転、ナゴヤドーム時代の人工芝になりますと、ダイビングキャッチの着地後には大きな摩擦力によって少しも滑らかに地面を滑ることなく、身体に急ブレーキがかかりますから、その衝撃を一瞬で身体全体が受け止めることになります。

 例えるなら車が壁に衝突するみたいでしょうか……。着地したときは大破してしまっているような感覚に陥ります。

 過去に他のチームの有望な選手でも、選手生命を奪われてしまったケースが存在しましたから非常に危険なプレーなのです。

 では、具体的に私の場合、身体にどのような代償を受けているか説明しますと、まず先に地面に顔、頭を打ち付けないように衝撃に耐えますから、首にはむち打ちの症状が現れます。その衝撃は何トンとも言われています。倒れ方が悪いと腰も痛めてしまいます。

 そしてグローブを持っている左腕の肘の内側と、どちらかの足の膝小僧に火傷のような擦り傷ができてしまいます。

 以前の人工芝で、ダイビングキャッチをして滑り込むプレーはとてもリスクの高いプレーだったのです。

 しかし、本当の戦いは試合が終わってからでした。

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