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おろし金で傷口を擦るような……ナイスプレーの代償

 疲れも取りたいですから、シャワーだけではなく湯船にも浸かりたいのが常です。

 当時は、水が染み込まない素材でできた、大きく傷を覆い隠す便利なバンソウコウのようなものはなかったので、膝の傷は手のひらで覆い隠してお湯に触れさせず、左肘内側の擦り傷は湯船につからないように腕を上げたまま入ります。

 湯船の中からずっと誰かを呼んでいるみたいで、なんとも情けないスタイルで浸かっているのです。

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 ナイスプレーの代償は、まだ続きます。

 いざ寝ようとしても首や肩周りはパーンと張ってしまって、痛くて寝返りも打てずに息苦しく、膝と肘の水分を含んだ傷口は衣服に触れないように気を張っている状態です。

 結局、その傷口は朝起きるとお好み焼きみたいな色をして衣服にベッタリとへばりついて衣服と同化してしまってるのですが、これがまたそれを剥がすのに苦労するんです。ガーゼを張ってもあまり変わりません。

 傷口が自然に乾燥してかさぶたになるまでの1週間程度は、この攻防戦が繰り返されます。

 けれど一番恐れていることは、擦り傷が塞がっていない状態で、また試合中に同じようなダイビングキャッチをしなければならない時です。

 不測の事態に備え、少しでもクッション性を高めようとガーゼを当てたり、サポーターをはめたりと、できるだけ最善の防御は当然試みてはいますが、またしてもとっさに飛び込んでしまうと傷口は普通の状態よりもさらに深く皮膚がえぐられることは言うまでもないでしょう。

 それは大根おろしのおろし金で傷口を擦る行為とでも言いましょうか……。もう、後はご想像にお任せします。傷口はゼロからではなくマイナスからの再建になります。

 なので、ダイビングキャッチでナイスプレーをしたとしても、その後に厄介な問題が待ち構えてますから素直に喜べなかったのです。

 かつての人工芝と天然芝は、身体のダメージに雲泥の差がありました。最近の人工芝はとても優れていますから、とてもとても羨ましい限りです。

 技術的な面からみても、怪我のリスクの面からみても、フィールド内が土であり、芝であることは、夏場の土がカラカラに乾ききった状態の時や雨上がりの時、風の強い日の砂ぼこりなどのマイナス面を除けば、とてもありがたいことです。ですから、ナゴヤ球場の内野は土のグランド、外野は天然芝のままで良いと私は思います。

 その一方で、現代の技術で作り出されていく人工芝にはただただ驚かされます。たくさんの技術者の皆さんのお陰で、よりプレーしやすい環境が用意されていると思います。現役の選手は、そのことに感謝してプレーしてもらえれば幸いです。

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