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戦力外通告で流した涙の理由…“さいとうはん”元DeNA・齋藤俊介が明かした「我慢の時間の過ごし方」

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/06/04

 他にこのような選手がいたらぜひ教えていただきたい。人気芸人のコスプレをしながら、野球ボールではなくサッカーボールを投げるというプロ初登板を経験した彼のような選手を。

 齋藤俊介。現在はファームサブマネージャーとして活動している彼は、現役時代は我慢の時間が多い選手だった。我慢の時間。今のベイスターズと彼に少し通ずるものがあるかもしれないと感じ今回話を伺ったのだが、結論としては「我慢の時間の過ごし方の極意」を学ぶことができたので、それを共有させていただこうと思う。

齋藤俊介 ©時事通信社

我慢の時間を過ごす上で大切なこと

 彼のことが記憶にある方にとって、彼のイメージは「明るい」「面白い」「いいキャラしてる」そんなところではないだろうか。そんな彼は、ルーキーイヤーは怪我に苦しみ登板なし。迎えた「初登板」は、ファン感謝祭でのキックベースだった。それ以降、一部のファンからは、彼がコスプレした人気芸人の名前をもじり「さいとうはん」と呼ばれるようになった。

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 思わぬ形で爪痕を残した彼だったが、翌年の彼はプロ野球選手としてようやく花が開いたのだ。満開とはいかないが、「さいとうはん」としてではなく、「齋藤俊介」として爪痕を残した。ただ、そこに至るまでに、彼は手術を乗り越え、リハビリを乗り越え、野球の感覚を取り戻す練習を乗り越えてきた。いわゆる我慢の時間を経ていたのだ。

 そもそもの話、齋藤は即戦力としてドラフト指名を受けてベイスターズに入団したにも関わらず、リハビリ生活がプロとしてのキャリアのスタートだった。当時を振り返ってもらうと、やはり相当へこんでいたとのことである。そんな中で、何を心がけていたのかを聞いてみると、「へこんでたけど、それでも腐ったら終わりだと思っていました。根拠なんかないけど、このリハビリを全力で過ごして、ウォーミングアップもトレーニングも全部1番を目指して、強くなって現場に戻れば必ず花が開くと信じてやってました。こんなもんじゃない、もっとできる。ここを越えれば必ずなんとかなると思いながらやってました」と話してくれた。さらに強調するかのように

「寺田さん、自分を信じなきゃやってらんないっすよ」

 と続けてくれた。根拠があろうがなかろうが、自分を信じることには大きな価値があると思うし、強さの証でもあると思う。逆に言えば、自分が自分を信じられないなら、それはある種の終わりなのかもしれない。信じるに値する自分自身を作り上げることが、我慢の時間を過ごす上で大切なことなんだろうなと、そしてそれ自体が、我慢の時間なんだろうなと、私はなんとなくわかったような返事をした。

「正直めっちゃきつかったですよ」

 そんな我慢の時間を過ごしてきた彼は、2年目のシーズンで花が開く。ただ、今になって振り返ってみると、このシーズンが彼のプロ野球選手としてのピークの期間となってしまうのである。それでも、このシーズンで経験したことが、戦力外通告を受けるその最後の瞬間まで彼を支え続けてくれたと言う。一軍での日々の感想を聞くと「一軍のレベルはかなり高いと感じました。それでも、通用する部分もいくつかあるように感じました。成功も失敗も経験しましたが、変な話、打たれた日ですらワクワクして過ごしてました。次はああしようとか、もっとこうしてみようとか、何より1年目はリハビリの悩みだったのに対し、2年目は投球に関する悩みになったので、毎日ほんと充実してました」と話してくれた。先述の通り、彼のピークはこのシーズンであり、3年目、ラストシーズンの4年目はまたリハビリ中心の生活に戻ってしまうのであった。

 即戦力として入団した彼に残された時間はそう長くはなかった。3年目、再び怪我からの復帰を目指すことになってしまった彼は、1年目とは少し違う心境で我慢の時間を過ごしていた。軽く投げてみる。痛い、今日もだめか。じゃあ明日はこうしてみよう。次の日軽く投げてみる。痛い、今日もだめか……この繰り返しの日々が彼を待っていた。

「正直めっちゃきつかったですよ。支えてくれるトレーナーの方にも申し訳ないし、自分にも苛立ちましたし。1年目のシーズンにはあった自分を信じる気持ちも減っていきましたし、心も削られてきましたね」

 時間がないことも自覚していた。そんな状況のまま、プロ野球選手として最終年の4年目のシーズンに入った。客観的に自分を見た時に、いよいよその時が来ることはなんとなくわかっていた。それでも主観では、少しでも可能性はある。諦めたくもないし認めたくもなかった。ただ全力でやるだけだ。2年目に見たあの世界へ続く坂道を、すり減った踵で踏みしめた。まだあの世界でやりたいこともある。まだやれる。凄まじい葛藤の中で、自分に言い聞かせ続けた。

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