木村先生
先生ご無沙汰しております。川崎のヤング主婦代表、西澤です。またこの季節がやってきました。文春野球交流戦、一年に一度オリ姫と彦ホッシーが巡り合う。神戸の高明な教授先生と川崎の平凡な主婦が織りなす、愛の、いやオリックスなので“藍”の不時着のお時間です。
文春野球も今年がラストシーズン、先生との対戦も今年でファイナルとなるようです。思えば初対戦からまさに不時着な、どこに辿り着くかわからない思いを先生にぶつけてきました。いつだってそれをバファリンくらいの優しさで受け止めてくださった先生です。幸か不幸か背負ってしまったオリックスファン、ベイスターズファンというこの業を共に乗り越えていきましょう、おれたちはズッ友……と、そう固い握手を交わしていたはずなのに。
先生のコラムの温度が急に変わったのは2年前。「西澤さん、まだ“負けるたびに心に盧舎那仏を建てる”とか“エースはアミメニシキヘビ見つけるより難しい”とか言ってるんですか。優勝してこそ野球ですよ」と、今まで誰も語ってこなかったプロ野球の真実をついに語り始めてしまったのです。ああブルーウェーブお前もか。かつての盟友たちはこうしてさよならも言わずに去っていく。順位表の上の上の方へ。
佐伯のファンファーレに包まれたまま時が止まっているのは私だけ?
台風の接近により雨天中止となった西武との交流戦の振替試合。チケットを発券するために立ち寄ったセブンイレブンで「にんにんの好きなトッポも買っていってあげようよ」と次男。自分用に買ったグミと一緒に大事そうにリュックにしまいました。もう何度目かの、親子3人のハマスタ。大学生になった長男とは京浜東北線のホームで待ち合わせでした。
階段から降りてきた長男を見つけて「にんにんこっちだよ! トッポ買ったよ!」と大声で報告する次男。ちょっと前ならそれを「マジはずいからやめろ」と注意していた長男が「お、ありがとう」と普通に答えて、やってきた大船行きに普通に乗り込みました。ねえ……駅までくるのもっと大変だったじゃん。あれほどトイレ行けって言ったのに「やっぱおしっこ」と言い出したり、Suica忘れただの、水筒重いだの、ハマスタ着く前に「一人で行くべきだった」といつも後悔していたのに。
交流戦の振替試合といえばノスタルジック空席祭りと相場は決まっていますが、この日のライト側ウィング席は7割方埋まっていました。「昨日すごい逆転したから、勢いで買った人も多いんじゃん?」と長男。「奇跡が2日続けて起きたらベイスターズとっくに優勝してるだろ」と母。
奇しくも今日は、年間通して奇跡を起こし続けた1998年オマージュ『GET THE FLAG! 』シリーズ。外野席から石井琢朗の応援歌が聞こえてきます。波留が、鈴木尚典が。現在のスタメンの応援歌の前に98年メンバーの応援歌が演奏される粋な計らい。「これ誰の応援歌?」「佐伯だよ」「すげーよくわかるね」。普段あまり褒められることのない私はなんか誇らしくなり「佐伯のファンファーレかっこいいでしょ。やっぱこれは最後に『さえき!』って言っちゃう」とペラペラ話し始めるも、子どもたちはベイ餃子とベイからを静かに平らげて全く母の話は聞いていません。さえき!
ちょっと前まで「太鼓の音が怖い」と耳を塞いでいた次男が、牧のタオルとメッセージボードを掲げながら一生懸命チャンテを歌っています。グラウンドの花火も怖いから「勝たなくていい」と言っていた次男が。ちょっと前まで淡々とした試合展開になるとすぐスマホのYouTubeで多村のサヨナラスリーランに逃避していた長男が、この淡々とした負けの展開に「やっぱ野球おもろい。また野球やりてえー」と町中華で甲子園見てるおじさんみたいなことをのたまっている。
あれ、もしかして、佐伯のファンファーレに包まれたまま時が止まっているのは私だけ? 子どもたちはどんどん変わっていくのに。私だけずっと「奇跡なんて起きないよ」とかカッコつけながら、その実誰よりも奇跡を願っているダサくて痛いファンのままなのでは。