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子どもも選手も、私を置き去りにしてどんどん前に進みます

「市役所狙え」という西武ファンの指令だけはなんとか阻止して、この日は花火もヒーローインタビューも見ることなくハマスタをあとにしました。「最後オースティン打ったし、2点取ったし、楽しかったね」。セルテのはま寿司でまぐろサーモン甘エビいくらを一気に注文して満足そうに次男が言います。「お寿司も食べられたし」。

「やっぱ今年のベイスターズ、関根がいるから全然違うチームに見える」と、からあげポテトフライ茶碗蒸しを一気に注文した長男が神妙な面持ちで頷く。「いやー関根、理想やん。あんなの。理想の左バッターやん」「逆らわないバッティングするし、流せるし、予想してないドラッグバントするし、自分の役割をわかってるよね。関根が打つから外野をころころ変えなくてもいい。関根ありきで作戦を立てられる。それが今年のベイスターズだ」。

「プロ10年目に覚醒するなんてこと、あるんだね」と私がいうと「それがおもろいよね。だって、今日のかみちゃだって、中川だって、なんか前と違うじゃん。中川、おれエスコバー右投げになったのかと思ったもん(笑)」。そしてまた「あーやっぱ野球やりてー」。

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次男作・牧秀悟選手へのメッセージボード(であそぶねこ) ©西澤千央

 先生、大きくなったのは我が子だけではありませんでした。ベイスターズの選手たちもまた、様々な挫折を繰り返しながら、やっぱり一歩ずつ前に進んでいる。中継ぎとして自分のボールを磨き上げた人、10年かけて持って生まれた野球センスという原点に立ち返った人、決してまっすぐで平坦な道のりではないけど、最後は自分を信じて進むしかない。子どもも選手も、私を置き去りにしてどんどん前に進みます。でもそれが正解な気がしてきました。たぶん私はもう、彼らにどこかへ連れていってもらう側の人間なんだと。そのどこかが「優勝」だったら、本当に最高なんですけど。

 行きはあんなに混んでいた京浜東北線、帰りはガラガラで静かでねむくなる。ちょっと前まで決まって鶴見で寝落ちしていた子どもに「ママついたよ」と起こされました。視界も頭もぼんやりしたまま、前を歩く二人の背中を見ていたら「あ、私子どもいるんだな」となんか不思議な気持ちになりました。

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