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批判を浴びやすい“巨人の捕手”という宿命 大城卓三、小林誠司が共存するための最適なシナリオ

文春野球コラム ペナントレース2023

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職人の生き様、いつまでも

 小田幸平さん。

 ジャイアンツに入団し、出場機会が増え始めた矢先の2005年オフにFA移籍の人的補償で中日へ移籍。この時、当時の中日の監督である“オレ流”落合博満さんが目を引くコメントを残しています。

「小田が(プロテクトから)外れているとは思わなかった。大もうけと言っていいんじゃないのかな」

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 捕手としての出場試合数のギネス記録を達成することになる谷繁元信さんを擁した中日ですら、そのバックアップを託せる選手を必要としていたのです。

 小田さんが加入してから引退するまでの9年間の中日は、3回の優勝に4回のAクラスとリーグを席巻する強豪チームでした。

 現役時代の小田さんは守備面での評価が非常に高い反面、打撃に多少の難ありと評されていました。明るいキャラクターで人気を集め、お立ち台での決め台詞「やりましたーっ!!」はTシャツとなって販売されるほどの浸透度でした。

 優れた守備面と少し難ある打撃面に加え、高い人気を誇る愛されキャラ。私は、これを聞くと小林選手の顔が真っ先に頭に浮かびます。

 34歳を迎えベテランとなった小林選手。侍ジャパン経験もあり、高い守備力に定評がある小林選手がもし出場機会の増加を求めて他球団へ移籍するようなことがあれば、移籍先の監督は間違いなく「最高の補強ができた」とコメントを残すはずです。

 私が見たい未来は、攻守両面で引っ張る扇の要・大城選手と、固い守備と意外性でチームを盛り上げ、支えるベテラン・小林選手、その両雄が並び立つジャイアンツです。

 捕手としてプロで生き抜く選手のなかには、レギュラーではなくても40歳を超えるまでプレーする例も多々あります。そんな選手たちの姿と、最近の小林選手の姿が重なって見えてきました。

 降板した投手の横に腰をおろしては声を掛け、チャンスで凡退して帰ってきた野手にも声を掛け……。そんな小林選手の姿がたびたびテレビに映るのです。

 他のポジションの野手なら、コンバートで2人を同時に生かすこともかなうでしょう。でも、捕手からのコンバートとなると完全に違う職種に転職するイメージです。

 スポーツ界の中でも、これだけ専門性の高いポジションは珍しいと思います。似たところですぐ思いつくのは、サッカーのゴールキーパーくらい。投手ですら先発、中継ぎ、抑えといくつかの役割の中で生き方を変えられるのですから。

 この専門性の高さから、捕手というポジションは職人のようなところがあるのではないでしょうか。

 それゆえに寿命が長い。

 芸能界でも若い時代に輝かしくスポットライトを浴びる俳優さんもいれば、いぶし銀ながらも息が長く、その生涯を俳優として過ごす職人肌の方もいらっしゃいます。純烈で共演させていただく先輩の歌手でも、デビュー50周年を超える方が数多くいるのは「歌」という職人技が身についていらっしゃるからだと思うのです。

 大城選手と小林選手。

 捕手というポジションに生きる2人。

 どちらかがグラウンドに立てば、どちらかはベンチに。1つしかないポジションを争うライバルです。

 このコラムを書きながら見ていた6月7日の京セラドームでのオリックス戦。8号ホームランを放った大城選手がベンチに戻り、この日誕生日を迎えた小林選手に抱きつき、喜び、祝うシーンを目の当たりにしました。その感動は、WBCやオリンピックで控え選手が懸命にベンチから盛り上げ、グラウンドにいる選手がその喜びをベンチに向けて爆発させている光景を見た時のそれと同じでした。

 好成績を残すチームはグラウンドとベンチの境がなく、チームとしての一体感があります。同じポジションのライバル同士が称え合うその姿は、一体感にあふれた強いジャイアンツに向けての何よりの道標になると私は信じています。

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