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祖父の猿翁も急遽代役を演じた襲名披露公演

 一方、村上氏は「祖父の猿翁さんもまた、大役を急遽演じた経験がある」と語る。

「代役で大きな役を掴むというのは演劇の世界では珍しいことではありません。当代猿翁さんも1963年、自身の三代目猿之助の襲名披露公演で、祖父である初代猿翁さんの『黒塚』の代役を務めています。初代猿翁が公演の直前に入院してしまったからです。この代役も今回と同じくらい衝撃的な伝説となっています」

三代目猿之助 ©文藝春秋

 憧れの祖父が、突然の不幸を奇貨に転じたように、その孫もまた一族に降りかかった悲劇を、その演技で万雷の拍手へと変えた。まるで出来過ぎた小説のようなめぐりあわせである。

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大名跡が直系に戻っても「血筋はそれほど重要ではない」

 将来、團子が猿之助を襲名するのは既定路線だった。だが、今回の騒動で“五代目”誕生が早まったようにみえる。実現すれば、大名跡が直系に戻ることになるが、村上氏は、「血筋はそれほど重要ではない」と指摘する。

宙乗りを披露する四代目猿之助

「大切なのは“猿之助スピリット”ともいうべきものが継承されていくことだと思います。『スーパー歌舞伎』を始めたのは三代目猿之助さんで、それを受け継ぎ『スーパー歌舞伎セカンド』を作ったのが四代目猿之助さんです。伝統芸能の世界にいながら、前進と革新を続けていく精神を持っているのが澤瀉屋という一族なのです。

 しかも、團子さんはまだ若く、古典歌舞伎・伝統歌舞伎の素養を培い、これから様々な役を経験して成長していきます。跡継ぎがどうのと外野が騒ぐものではありません。ただ、最も有望な若者が結果を残そうとしているのは事実で、そこを賞賛すべきでしょう」

 わずか19歳にして歌舞伎のニュースターとなった青年。彼のこれからの成長に期待したい。

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