山本はさらに、「局長の子弟が後継者として資格がある」と世襲を優遇する考えを示し、「自分の子弟については、責任を持って教育をしてほしい」と求めた。
全特が策定した「郵便局長の後継者育成マニュアル」には、組織がどんな人材を求めているかが記されている。
発掘段階で見極めるべき「必要な資質」は、(1)地域への奉仕に使命感を有する人、(2)地域の人々に信望があり、リードできる知識・教養を有する人、(3)郵便局制度に深い理解を有する人、(4)指導力、渉外力、管理能力、経営能力を有する人、(5)強い精神力、体力を有する人、(6)情報を収集・分析し、それを活用できる能力を有する人――としている。
さらに、事前にチェックすべき三つの「確認事項」として、(1)強い意志で志願していること、(2)配偶者がいる場合は配偶者も同席させて面接し、理解と協力意思があること、(3)重大な交通違反歴やコンプライアンス違反歴、多重債務の前歴がないかヒアリング─を挙げている。日本郵便のホームページでは「郵便局経営に責任を持ち、お客さまの信頼を担い得る人材」と書いてある程度なので、局長会のほうがより具体的だ。
「世襲」を優遇し、「配偶者の面接・協力意思」を重視する点については、この10年余りで緩和されてきたように映る。
全特に先駆け、関東地方会が2013年3月に作成した「後継者育成マニュアル」には、後継者の選出順位は「第1順位 現局長の子弟・親族」「第2順位 任地居住で地縁性を発揮できる局長推薦者」「第3順位 郵便局長会に理解のある社員」と明快に記されていた。留意事項として「地区会に影響力のある役員は自ら手本となるべく子弟・親族を最優先で後継する」「子弟を後継させることの出来ない場合は局舎の譲渡も視野に入れる」と念押ししていた。
この時点では世襲がはっきり優先されていたが、2019年の全特版マニュアルでは選出順位の記述は盛り込まれなかった。
世襲ではない局長も増えてきたが…
山本の言葉にも表れたように、世襲を優先する慣習は確かに残っている。それでも世襲ではない局長が増えている状況に配慮して、明言や明文化を避ける傾向が強まっている。
局長の配偶者についても依然、各地で組織化された夫人会に入れて会費を払わせ、政治活動にも参加させることを強く求めている。政治活動の動員として重要だからだ。ただ、10年ほど前は、独身者が局長となることを認めなかったり、共働きの配偶者が面接を拒否したことで推薦を取りやめたりする例がざらだったのに対し、ここ数年は独身でも局長として認め、配偶者の面接を求めない地区会も増えてきた。そもそも全特のマニュアルの存在を知らずに後継者を探しているという局長も少なくない。
実態は、退職する局長が自ら後継を見つけることが「局長選任」そのものであり、最優先の掟だ。局長が後継候補に挙げれば、世襲かどうかにかかわらず、たいていはそのまま推薦が決まる。
中国地方で局長候補者の研修を担う局長が打ち明ける。