局長になるためには、40票を集める「集票マシーン」になることが必須……特定の政党、政治家を応援するために、人事を悪用する日本郵政と郵便局長たちの手口を紹介。
同問題を深く追求してきた、朝日新聞記者の藤田知也氏の新刊『郵便局の裏組織~「全特」――権力と支配構造』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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「参院選で最低40票」が採用条件
「最低40票は集めてもらうぞ。できるな?」
九州地方の郵便局で働いていた日本郵便の男性社員は、直属の局長からそう念押しされた。局長になれと誘われ続け、根負けして受け入れた直後のことだ。
40票とは、参院選で求められるノルマを指す。気圧された男性は「頑張ります」と応じざるを得なかった。2019年の参院選が近づいていた。
局長たちが休日や夜に駆り出され、政治活動に邁進する姿は以前から目にしていた。それが局長になどなりたくない最大の理由だった。実際に局長への誘いを断る同僚は多いのだが、地域で強い権限を持つ局長に何度も請われるうちに拒みきれなくなった。
条件をのんだあとは、地区会の幹部数人による面接が待ち受けていた。そこでも政治活動に取り組むことだけは強く確認された。
「局長会が応援する候補の票集めを頑張ること。それも局長の大事な仕事の一つだ」
威圧的な物言いに、「はい」以外の答えは許されない。40票は「集めないと困る最低ライン」と教えられた。
その場で局長会の推薦を受けることが正式に決まり、局長会による研修が始まった。現役の局長から採用試験や面接対策の指導を受ける。政治信条を捨ててでも選挙に協力する者だけが享受できる特権だ。研修は公民館を借りることもあれば、先輩局長の局舎の一角で行われることもあった。
秋から冬にかけて日本郵便の局長採用試験があり、年末には合格を告げられた。
翌年春に局長に就くとまもなく、地方郵便局長会主催の「新任局長研修」に呼ばれた。会社が実施した新任局長研修とは別で、平日の昼間に休暇を取るよう求められた。
ホテルの宴会場へ出向くと、日本郵便の九州支社長らが出席する前で、地方会幹部らが代わる代わるあいさつし、そこでも政治活動の重要性が繰り返し説かれた。
研修が終わると、流れ作業で書類に名前を書かされた。局長会への入会申し込みのほか、銀行口座の自動引き落としの伝票もあった。翌月から様々な名目のお金が引き落とされた。
自民党の党費は局長会の会費の一部で賄われ、政治団体「郵政政策研究会(郵政研)」への寄付金は、局長のランクに応じて強制徴収される。個人の費用負担は初年度で30万円を超え、翌年以降も年20万円超を払わされる。