「局長会の存在自体が、有能な人材を局長に引き上げる最大の妨げです」と嘆く局長も……日本郵政では、なぜ優秀な人間が出世を躊躇するのか?
同社の異常実態を、朝日新聞記者の藤田知也氏の新刊『郵便局の裏組織~「全特」――権力と支配構造』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
局長会が策定した「後継者育成マニュアル」
局長の公募採用は形ばかりだという九州支社の人事担当課長や地区統括局長らの証言は、全国郵便局長会(全特)が2019年に策定した教材「郵便局長の後継者育成マニュアル」からも裏付けられる。
退任する局長が後継者を見つけて育てるための「指針」としてまとめられたもので、組織力の維持や強化に向けて「早い段階から組織の目的と活動を理解させ、帰属意識を高めること」が目的だと書かれている。
後継者はどのように選び、育てるのか。マニュアルには、こんな「発掘・育成プロセス」が例示されている。
【発掘プロセス】
(1)退職予定の局長らが「必要な資質」を踏まえ、候補者をおおむね3年前までに選定しておく
(2)退職予定の局長は退職希望3年前の年度の4月1日に「後継者推薦調書」を部会長経由地区会長に提出する。部会長及び地区会長は、候補者の「人物調査・面接」を実施し、推薦を総合判断。推薦を得た候補者は育成プロセスへ移行する
【育成プロセス】(※局長の試験は就任の前年秋~年末)
(1)試験前年の9月30日まで:研修を四半期に1回程度開催し、モチベーション維持にも努める
(2)試験前年の10月1日から:全特の歴史・変遷、しくみ、目的を理解させ、政治活動・選挙運動、地域活動の重要性について理解を深めさせる。育成研修の最終章で「公募試験対策」も重点的にアドバイスする
(3)合格発表後の1~3月:事前指導期間として部会会議への陪席等を実施し、円滑な局長引き継ぎに努める
実際の慣行は、地区会によって異なる。律義にマニュアルに従う地区会もあれば、もっと短期間で候補者を決めて育成する例や、候補者が見つからずに直前まで探し続けるケースも。面接を仰々しく行う例もある一方、役員に菓子折りを持ってあいさつに行くだけで済ませる地区会もある。
ただ一つ明確なことがある。局長を選ぶのは日本郵便ではなく、局長会だということだ。
優秀な社員を局長に採用できない理由
「局長任用の公募でも、基本的に局長会が推薦する人が合格するようになっている」
2020年1月にあった全特の会合で、会長の山本利郎(当時)は当然のごとく言及し、こう解説を続けた。
「既得権益と見られると困るので、公募という制度をつくった。局長会を発展させるために、会社といろいろ話し合って今のスキームができたということを、しっかり理解いただきたい。『私が推薦した社員をなんで局長にしないんだ』と言うと、またおかしなことになります。会社とのあうんの呼吸を維持していかないと、世論が許さなくなります」