かんぽ生命の不正販売、ゆうちょ銀行の不正引き出し、NHKへの報道弾圧……。従業員40万人を超える巨大組織「日本郵政グループ」の、信じられないような不祥事が次々と明らかになっている。

 かんぽ生命の不正問題を最初に報じた「クローズアップ現代+」を巡っては、NHK経営委員会が2018年10月に上田良一NHK会長を厳重注意。今年7月には当時の会議の議事録が全面開示されたが、番組の制作手法を激しく批判する一部委員の言動が、放送法に抵触していたのではないかと問題視されている。

 日本郵政グループが3社長の連名で抗議文を送付したことで始まったこの問題。そのとき、NHKの制作現場や経営委員会では何が起きていたのか。藤田知也氏(朝日新聞記者)の著書『郵政腐敗  日本型組織の失敗学』(光文社新書)より、その内幕に迫った第4章「激突――NHK vs.日本郵政」を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/後編に続く

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幻の座談会

 2018年7月14日の土曜日、東京・日本橋の貸会議室。ここでNHK「クローズアップ現代+」の座談会が半日がかりで収録されていた。

 コの字形に並ぶテーブルの中央に女性アナウンサーとかんぽ生命の元社員がいた。2人を囲むように座った男女4人は、親が買わされたかんぽ商品や投資信託の勧誘に問題があると訴えていた。かんぽの元社員は、不正な営業が郵便局で横行しているおそれがあると打ち明けた。金融に詳しい弁護士も加わり、過剰な営業目標やノルマについても議論された。

 だが、この座談会がNHKの視聴者に届けられることはなかった。NHK内の判断で、放送が2度にわたり見送られたためだ――。

 クローズアップ現代+は2018年4月24日の放送で、郵便局員によるかんぽの不正営業をいち早く報じた。

 タイトルは「郵便局が保険を“押し売り”⁉ 郵便局員たちの告白」。第1章で紹介した坂部親子が被害を訴え、複数の郵便局員たちが「ノルマに追い詰められ、詐欺まがいで契約させることがある」などと証言した。日本郵便とかんぽの役員が取材に応じ、不正防止に取り組んでいる姿勢を強調した。

©AFLO

 番組への反響は大きく、郵便局員や顧客家族からの情報提供が相次ぎ、続編に向けた取材が動き出した。7月14日の座談会収録も、その一環だった。

 続編の放送予定は8月10日。番組ではその1カ月前、7月7日と10日の2度にわたり、情報提供を募る動画を公式ツイッターに投稿した。

 1本目の動画「続報 止まらない⁉ 保険の“押し売り”」では、5月に家族が不必要な保険を買わされたと訴える男性を紹介。男性が「詐欺まがいの契約、すごく恐ろしい」と語り、「保険業法違反の可能性」があるとした。

 2本目の動画「続報2 郵便局員たちの告白 “変わらない実態”」では、4月の放送で会社側が「営業目標を抑える」「お客さま本位の営業を浸透させる」と説明したのに対し、現役社員が「実質なにも変わっていない」「不正はなくならない」と訴えた。

 2本の動画は〈あなたは大丈夫? 情報をお寄せください〉と結ばれている。