放送の見送りと動画の削除は、番組を所管する大型企画開発センター長が、日本郵政広報部長に電話で伝えた。統括チーフ・プロデューサーの発言について「舌足らずの部分があったかもしれない。ご理解いただきたい」と釈明。放送法上は番組制作・編集の最終責任者が会長であり、実際の業務運営は放送総局長に分掌されていることを確認したとしている。
NHK側は、この電話で郵政側の理解を得たとみていた。だが、問題はそこで終わらなかった。2カ月ほどして郵政側の攻撃が再び火を噴くことになる。
仕切り直し
続編放送の見送りが決まったあとも、クローズアップ現代+の制作現場にめげる様子はなかった。
NHK労働組合の下部組織である分会が2018年秋に現場側にヒアリングし、経緯を記録した資料をもとに振り返る。
動画を削除した4日後の8月7日には、統括チーフ・プロデューサーと現場のプロデューサー、ディレクターらの打ち合わせがあった。そこで、「(1)打ち切りではなく取材は継続すること(前回放送から半年後の10月を目指す)、(2)放送のハードルが今後変わることがないようゴール設定すること」が今後の取材方針として確認された。
8月9日には、現場の取材班が日本郵便の広報担当者と面会した。日本郵便側からは「動画削除・放送延期によってNHKとの関係はゼロベースに戻った」「再び番組として動き始めるならば再度抗議文を送る等同様の対応を行う」と伝えられたという。
統括チーフ・プロデューサーは8月21日の打ち合わせで、郵政側への取材が難しいことも踏まえ、「郵便局をメインに取り上げることと、編集済みの動画の投稿も厳しい」と語っていた。そのうえで、「番組を『郵便局単独』ではなく、『金融機関全般の問題』に広げ、郵便局を一要素として扱うこと、『金融トラブル解決編』というテーマにすることで、郵便局の組織的不正の問題を扱う方針に転換すること」を確認した。放送予定は「10月30日を目指して仕切り直し」とされた。
9月3日の打ち合わせでは、番組構成は「『金融トラブル解決編』の大構成の中で、郵便局は『取り組みがなかなかうまくいっていないケース』として紹介すること」が確認されていた。
このあと番組は約170の金融機関を対象に、金融商品をめぐるトラブルに関するアンケートを実施する。アンケートの送付先には、かんぽ生命も加えていた。あえて外す理由もなかった。
かんぽ側に送られたアンケートは、9月18日付だった。
攻撃の再開、問題のすり替え
アンケートの発送から1週間後の9月25日。阪神高速道路東京事務所に、ある“来客”があった。
阪神高速道路会長でNHK経営委員長代行も務める森下俊三を、日本郵政上級副社長で元総務事務次官の鈴木康雄が訪ねた。2カ月近く鳴りを潜めた郵政側が、再び動き出した瞬間だ。