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かんぽ不正問題をすり替えて“報道弾圧”…日本郵政は「陰湿な手口」でNHKを攻撃していた

『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』より #1

2021/07/13
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 こうした動画のネット投稿は、番組が掲げる「オープン・ジャーナリズム」に沿ったものだ。取材や制作の過程をネット上で公開して情報を募り、取材をさらに深めようという試み。4月の放送も同様の流れで、放送前から多くの情報が集まった経緯もあった。

 8月の放送に向けて3本目、4本目の動画も用意されていた。冒頭の座談会も公開予定だったが、投稿する前に予期せぬトラブルが起きた。

動画の削除要求

 2本目の動画が投稿された翌日、日本郵政グループは動き出した。

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 7月11日、日本郵政とかんぽ生命、日本郵便の3社長連名の文書が、NHK会長の上田良一あてに送られた。動画で使われた「詐欺まがい」「かんぽ詐欺」「押し売り」といった言葉が同グループの名誉を毀損しているとし、動画を即刻削除するよう求める内容だ。

 郵政側は文書で「全ての郵便局員が不適正募集を行っているような誤った印象を視聴者に与え、お客様に過度な不安を抱かせる内容で、当グループの経営にも甚大な支障をきたすおそれがある」と主張。動画を流す前に、確認取材がなかったことも指摘していた。

 2日後の7月13日、NHKは動画内のテロップ表現を修正した。「押し売り」は削ったり別の言葉に置き換えたりした。「保険の契約をさせられた」は「保険の契約を結んだ」に直し、「あなたは大丈夫?」も消された。

 修正の理由について、のちにNHKは「情報提供を呼びかける動画か、事実を伝える動画か判別しづらい内容だった」ため、動画の本来の目的である「情報提供の呼びかけ」であることを「明確にした」と説明。「訂正すべき事実の誤りはなかった」とも強調している。

郵政キャリアが目をつけた攻撃材料

 NHK側は動画の修正とともに、日本郵政側への回答書と、続編放送に向けた取材の申し入れ書を用意した。回答書は番組責任者である統括チーフ・プロデューサー名で、動画の削除には応じられないとする内容だ。

 だが、郵政側は回答書を受け取ろうとしなかった。自分たちが抗議文を送った相手であるNHK会長からの回答ではない、という理由だ。

 報道機関であるNHKとすれば、取材対象者からの苦情や抗議は珍しくない。相手の立場や抗議のあて先を理由に、いちいち会長を引っ張り出せるはずがない。