森下の説明では、鈴木側が森下の秘書あてにアポを入れた。NTT西日本社長などを歴任した森下は、通信業界の監督官庁である総務省の事務方トップだった鈴木とは20年以上に及ぶ旧知の仲。森下は用件も聞かず、鈴木の来訪を受け入れた。
鈴木は森下に、一連の経緯を伝え、NHKへの不満をぶちまけた。郵政側がNHK会長に「ガバナンスについての改善措置」を要求したのに、回答がないことも言い出した。森下は「私に言うのではなく、経営委に正式に申し入れてほしい」と話したとしている。
そもそも郵政3社長による抗議活動は、鈴木が主導したものだと郵政幹部は口をそろえる。郵政3社長の一人も、「7月の動画を見て『けしからん』と思ったのは事実だが、抗議するのは次元の違う話。我々は名前を貸しただけ」と認めた。
10月5日。3度目となる郵政3社長連名の文書が発出された。今度の送り先は、NHK経営委員会。会長の任免や経営事項の議決権限も持つ、NHKの最高意思決定機関である。
文書では、統括チーフ・プロデューサーの発言を根拠とする「ガバナンス問題」に加え、NHK会長が自ら回答しないことも問題視し、経営委に「ガバナンス体制を改めて検証し、必要な措置を講じてほしい」と要請した。
郵政側の攻撃対象は、当初の「かんぽ不正問題」から「NHKのガバナンス不全」へと見事にすり替えられている。
「郵便局を扱うのはなし」
かんぽ問題を追っていたクローズアップ現代+の現場は、10月に入って雲行きが変わっていく。
労働組合分会の作成資料によれば、10月10日の統括チーフ・プロデューサーとの打ち合わせで、現場側には「『なかなかうまくいっていないケース』として郵便局を扱うのはなし」との指示が出た。番組の内容は「トラブル体験者(郵便局)の対策座談会」と「4月24日放送の再編集」にとどめるように、との指示もあった。このとき、統括チーフ・プロデューサーは「郵便局が集団訴訟を受けるなど、放送のタイミングが熟するのを待つように」とも言ったという。
さらに10月16日の打ち合わせで、「対策座談会」も取り下げるよう指示があった。「座談会」とは、7月に収録した冒頭の内容を指す。この時点で、かんぽ問題をめぐる新たな素材は出さず、4月の放送内容を軽く振り返ることにとどめる方向となった。
郵政側は10月中旬、番組側から「10月末の放送で4月に取材した内容を取り上げる可能性がある」との連絡を受けたと明かしている。
番組の現場には、郵政側から経営委員会に文書が届いたことは知らされなかった。
(後編に続く)