かんぽ生命の不正販売、ゆうちょ銀行の不正引き出し、NHKへの報道弾圧……。従業員40万人を超える巨大組織「日本郵政グループ」の、信じられないような不祥事が次々と明らかになっている。

 かんぽ生命の不正問題を最初に報じた「クローズアップ現代+」を巡っては、NHK経営委員会が2018年10月に上田良一NHK会長を厳重注意。今年7月には当時の会議の議事録が全面開示されたが、番組の制作手法を激しく批判する一部委員の言動が、放送法に抵触していたのではないかと問題視されている。

 日本郵政グループが3社長の連名で抗議文を送付したことで始まったこの問題。そのとき、NHKの制作現場や経営委員会では何が起きていたのか。藤田知也氏(朝日新聞記者)の著書『郵政腐敗  日本型組織の失敗学』(光文社新書)より、その内幕に迫った第4章「激突――NHK vs.日本郵政」を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編から続く

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 2018年10月23日。NHK経営委員会が暴挙に打って出る。

 その日の委員会は委員12人全員が参加し、NHK会長の上田良一も呼びつけた。10月5日付の郵政3社長の文書をもとに、上田の業務執行に問題がなかったかを問うためだ。

 監査委員を務める常勤の経営委員、高橋正美(元損害保険ジャパン日本興亜副社長)が報告した。

「本件の情報が(会長を含む担当幹部に)いち早く報告され、組織対応がされていることから、協会の対応はガバナンス上の瑕疵があったとは認められない」

 出席した委員からは当初、「郵政がNHKのガバナンスうんぬんを言う前に、自分の会社のガバナンスはどうかと思った」という意見も出ていた。

 経営委員長代行の森下俊三が、NHK番組への批判の口火を切った。

「今回の番組の取材は極めて稚拙。取材はほとんどしていない」

NHK放送センター(東京都渋谷区) ©iStock.com

「インターネットで出てきたものを、自分たちでストーリーをつくり、郵政の幹部をインタビューしている。インタビューを一部だけとらえ、自分たちのストーリーでやっている。それで郵政の連中が怒っちゃったわけです」

「番組としてはしょうがないが、その後またインターネットでやった。反省をしないで、同じことを繰り返した。現場を取材していない。オープン・ジャーナリズムと言っているが、インターネットを使う情報は極めて偏っている。本当なら現場へ行って、現場でどうなっているかを見ないといけない。それをやらないから、今度は郵政側が、もう取材を受けないと言ったわけです」

「結局、番組の取材も含めて、作り方に問題がある。うのみにしてインターネットの上で作っていることが問題だ」

 森下がそうなじり倒した番組や動画を見れば、顧客や現役社員を直接に取材したものだと一目でわかる。公表されない議論だと高をくくっていたとしても、関西経済同友会代表幹事なども歴任した大物財界人である森下が、根拠のない番組批判をどんな意図で展開したのかは気になるところだ。

 委員長の石原進(JR九州相談役)も追い打ちをかけた。