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「NHKのルールじゃなく、世の中の常識がある」日本郵政からの圧力に屈した経営委員会の“偏った論理”

『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』より #2

2021/07/13
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消された放送

 クローズアップ現代+の現場は、金融商品のトラブルを特集する10月30日の放送に向けた編集作業が佳境を迎えていた。会長に厳重注意処分が下された時点では、かんぽ問題は4月の放送内容を再編集する形で軽く触れる予定になっていた。

 労働組合分会の記録によれば、NHK会長が厳重注意処分を受けた2日後の2018年10月25日には、こんな出来事があった。

〈過去放送も含めて郵便局の画像を出すことや、郵便局に話題を振ることなどをやめるよう指示がある〉

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 指示は統括チーフ・プロデューサーから数人の担当プロデューサー、ディレクターに出されたものとみられる。4月24日の放送内容を再編集して番組内で簡単に触れる予定も、この時点で完全に「消された」ことになる。

 実際、10月30日に放送されたクローズアップ現代+は「あなたの資産をどう守る? 超低金利時代の処方箋」と題し、金融商品をめぐるトラブルや対策を特集した。新たに取材したJA共済の不適切事例を報じ、過去に保険や投信の販売トラブルを番組で扱ったことには触れたが、かんぽや郵便局の問題には何も触れなかった。

 NHK広報局は2020年4月の朝日新聞の取材に対し、「(2018年)10月25日に統括チーフ・プロデューサーがかんぽ問題を取り上げないよう指示した事実はない」と回答した。NHK編成局計画管理部は、2018年10月30日の放送でかんぽ問題に触れなかったのは、番組が実施したアンケートへの協力を同年10月上旬にかんぽ側が断ったからだ、という趣旨の説明もした。

 放送法は「番組編集は何人からも干渉されない」と定め、規定順守を経営委員にも課している。一部の専門家からは、経営委員が番組を批判すること自体が編集に影響を与えかねず、放送法に抵触するおそれがある、との指摘がある。ただ、経営委員会で番組への意見を述べ合うのが適切な局面があることもまた想像はつく。

 ある総務省幹部の解説はこうだ。

「今回の問題で経営委員の『資質』は問われるかもしれない。でも、一番の問題は、経営委員による番組批判が放送に影響をしたのかどうか。経営委員に何を言われようとも、批判に臆せず必要なことは毅然と報道する姿勢が、NHK執行部のほうに求められるはずなんですけどね」

 NHK執行部とNHK経営委員会は、会長への厳重注意処分は「番組制作に影響していない」と国会などで主張してきたが、会長への処分が10月の放送に影響していないかどうかはなお釈然としない。

『郵便局 不適正営業問題』放送延期の経緯

 2018年10月30日放送の番組でかんぽ問題に触れなかったことは、NHK内の制作現場に波紋を呼んだ。

 かんぽ報道は、制作局のプロデューサーとディレクター数人の現場スタッフが中核を担った。大型企画開発センターに所属する担当の統括チーフ・プロデューサーも、制作局の出身だった。