10月の放送後、制作局の一部で構成する労働組合の分会のもとに、番組の現場から不満の声が届いた。分会が現場側から一連の経緯を聴取し、その記録をもとに作成したのが「『郵便局 不適正営業問題』放送延期の経緯」と題したA4判3枚の資料だ。会長への厳重注意処分がまだ知られていなかったため、現場スタッフの口もそれほど重くはなかったようだ。
資料の作成日は2018年11月29日。その日、東京・渋谷のNHK放送センター5階の会議室であった「対話集会」で配られた。資料は回収されたが、参加者のひとりがこっそりと残していてくれた。
対話集会は、労組分会の提案により、不満が募る現場と番組幹部とで意見を交わすために開かれた。集会には制作局の部長やデスク、大型企画開発センター所属の統括チーフ・プロデューサー、報道・制作両局の労働組合員らが出席したとされる。
統括チーフ・プロデューサーはこの場で、番組でかんぽ問題に触れなかった理由について、こう説明した。
「最終的に郵便局メインの番組を諦めるときは、僕は臥薪嘗胆(がしんしょうたん)で待つしかないと。行政処分を受けるような事態とか、高齢者や家族が訴訟を起こすとか、そうしたことに備えていったん待とうと、10月30日の番組は郵便局に触れないでやることを僕が決めた」
「僕の判断としては、本当に理不尽な相手なので、詐欺まがいのケースの質問でも支離滅裂なまま返ってくる相手ゆえに、ここで中途半端に出すよりは、次のときに一気に出したほうがいいと判断して、10月の回は郵便局には全然触れなくなったということ」
「バカじゃねぇのって言えばよかった」
参加者からは、不満が相次いだ。
「番組の方向性が変わったのに、それでも郵便局が落ちるのは、現場としては納得がいかないというのが普通の心情だ。不自然だし、この不自然なことが今後も起きるのではないかというのが一番の問題。それは今も解決していないし、もやもやが残ったままで、煙に巻かれた印象だ」
「現場としては、なにかしら郵便局に触っちゃいけないのかという空気を疑わざるを得ない。そこはミスという言葉で終わらせられると、信用できない」
現場の担当プロデューサーとみられる男性は、こうも語った。
「正直、郵便局の『ゆ』の字も出ないとなったとき、バカじゃねぇのって言えばよかったのに、できなかったんだよね。一生懸命やってきて、そうなったときに、バカじゃんと言える空気にならないっていうか」
「誰かに向かって、どうしてこういう判断なんだっけと聞けばいいだけだけど、それを俺がしなかった。この空気にどうやってあらがえばいいのかが、自分にもまだ答えがない」
この時点で参加者の多くは、会長への厳重注意処分を知らなかった。制作局幹部らしき男性が「郵便局の向こうにある総務省のことを忖度している人がいるんじゃないかという声は聞く。ごちゃごちゃ言われたことはあるが、もっと大きな上の話だと思う」と言い、統括チーフ・プロデューサーが「いつものナニナニ局長とか、そういうのは本当にない。心配はもっともだけど」と釈明する一幕もあった。集会は2時間を超え、明確な答えに行き当たらないまま時間切れとなった。