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「NHKのルールじゃなく、世の中の常識がある」日本郵政からの圧力に屈した経営委員会の“偏った論理”

『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』より #2

2021/07/13
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「4月の番組で郵政も協力したが、これは詐欺だとか押し売りだと出てくる。郵政が抗議した。抗議しますよ。抗議はしても、一理もあるからただしますと。ただすことをやっている最中に、ツイッターの番組を作ったと怒っている。ただす余裕もなく、すぐそういうことをやるかというのが一番の郵政の抗議の原因だ」

 個別番組への批判や介入をたしなめる意見も出たが、委員長と委員長代行の2人が急先鋒となり、委員会の大勢は番組やSNS動画に否定的な流れに傾いた。

 経営委は上田をいったん退席させ、厳重注意処分を決定。上田を呼び戻すと、統括チーフ・プロデューサーの失言と郵政3社長に会長が自ら回答しなかったことの「二つの問題」を理由に厳重注意とし、さらに「必要な措置」を講じることも要求した。

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 監査委員が問題ないと判断した事態に、どんな「措置」が必要なのかと戸惑う上田に、石原は「相手が納得していない。会長がきちっと対応していれば変わったんじゃないか。3社長名で出している文章なら、会長名で返すのが正しい対応だろう」と注文をつけた。「NHKのルールじゃなく、世の中の常識がある」とも投げかけた。

 ある委員が「これからも何かあったら、会長が対応しなきゃいけないきっかけになってしまう」と懸念を示しても、森下らは「きっかけになってもいいんじゃないの」と意に介さなかった。

 上田が踏み込んで「番組の制作過程は、基本的な説明は現場からやっている。いちいち会長がやっていたら、とてもじゃないがカバーしきれない」と抵抗すると、森下が開き直った。

「こんな話になったのは、本当は彼ら(郵政)が納得していないのは取材内容。経営委は番組のことは扱わないのでこう言ってきた。本質的にはそこで、彼らが不満を持っている。担当者はたぶん、たまたま失言しちゃったということだと思うけど」

 上田が意を決し、「これは私の問題というよりNHK全体、経営委も含めて大きな問題になる」「これが表に出たときに、世の中が『その通りですね』という話になるかどうか」「NHKは存亡の危機に立たされかねない」とも訴えた。

2019年10月、参院予算委員会に参考人として呼ばれた(左から)鈴木康雄氏、石原進氏、上田良一氏 ©AFLO

 だが、委員が耳を貸すことはなく、NHK経営委員会はその日のうちに、郵政3社長あてに文書を発出した。

「未だご理解のいただける対応ができていないことは経営委員会として誠に遺憾に思っている。経営委員会は本日、会長に対し、ガバナンス体制をさらに強化するとともに、視聴者目線に立った適切な対応が行われるよう必要な措置を講ずることを厳しく伝え、注意した」

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