かんぽ生命の不正販売、ゆうちょ銀行の不正引き出し、NHKへの報道弾圧……。従業員40万人を超える巨大組織「日本郵政グループ」の、信じられないような不祥事が次々と明らかになっている。

 そうした“腐敗の構造”の裏には一体何があるのか。その正体に迫った藤田知也氏(朝日新聞記者)の著書『郵政腐敗』(光文社新書)より、内部通報制度の崩壊から浮かび上がる“いびつな組織構造”について紹介する。(全2回の1回目/後編に続く

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 組織に潜在するリスクを探知するために欠かせないツールの一つが、「内部通報制度」だ。通報された事案の解消だけでなく、組織内で深刻な事態が起きていないかを早期に嗅ぎ取り、不祥事の芽を摘み取ることに役立つからだ。

 日本郵政グループでは以前から、内部通報制度がグループ各社で整備されていた。社内の窓口に加え、社外の窓口も設置され、社員にも周知されていた。

 だが、万全なのは「形」だけで、中身がともなっていないことも知れ渡っていた。

 郵便局の現場では、通報しても調査してもらえないばかりか、通報者が誰かをあぶり出す“犯人捜し”がすぐに起きる。有力な郵便局長が「仲間を売るのは許せん」と吠え、通報制度の趣旨を真っ向から否定する事件が起きても、経営陣は曖昧な態度しか見せてこなかった。「通報しないほうが身のため」が組織の常識となるのは当然の成り行きで、通報制度の機能は見事なほどに無力化されている。

©AFLO

 旧特定郵便局長を特別扱いするいびつな組織構造とともに、通報制度が破綻していった現場の実態を明らかにする。

仲間を売ってはいけない鉄則

 福岡県の筑豊地区にたたずむ、局員数人の小さな郵便局。

 その応接スペースで2019年1月24日午前、1台のICレコーダーが迫力ある声をとらえていた。

「どんなことがあっても、仲間を売ったらあかん。これ、特定局長の鉄則」

 声の主は、旧特定郵便局長(現エリアマネジメント局長)として九州でナンバー2の座にあった九州支社副主幹統括局長(当時)。地区連絡会の統括局長も務める。

 音声データにはもう一人、震えながらうめき声を発する男性の声も記録されている。同じ地区連絡会に所属する配下の郵便局長だ。

 副主幹統括局長は、配下の局長にこう迫った。

「会社はダメちゅうけど、犯人を捜す」

「(通報)してないな? 約束できるな? (名前が)あったらおれんぞ」

 九州の大物局長がそう言いながらあぶり出そうとしたのは、同じ地区内で郵便局長を務める息子の不祥事について、日本郵便の内部通報窓口に知らせた“犯人”だった――。