ことの始まりは3カ月前の2018年秋。福岡県内の旧特定郵便局の局長6人が、同じ地区の郵便局長の内規違反の疑いを内部通報窓口に知らせたことだ。
6人があえて本社の内部通報窓口を頼ったのは、内規違反が疑われる郵便局長の父親が、本来は不正の疑いを伝えるべき「上司」だからだ。通報する対象が息子となれば、証拠隠滅のおそれや報復の危険も考えられる。
内部通報窓口に届いた文書にも、こうつづられていた。
〈この告発内容は統括局長も関係者となるため取扱いに十分注意されてください。調査についても告発者やその協力者が決して不利益をこうむることが無いようお願いします〉
だが、通報を受けた日本郵便本社のコンプライアンス担当役員は、通報文書の発送から約10日後、件(くだん)の副主幹統括局長に連絡し、息子の内規違反で通報があったために調査を始めることと、その通報者が「複数」であることを明かした。
担当役員は口止めをしていたものの、調査対象者の父親に事前連絡し、通報があったと知らせていた。これは、内部通報制度のガイドラインに反すると疑われる行為だ。
通報内容は、局員への暴力や勤務時間中のゲームセンター通い、内規に反するお金の取り扱いなどだ。九州支社コンプライアンス室が2018年11~12月に調査したが、本人が否認したことなどを理由にいずれも不正とは認定しなかった。ただ、暴力を振るわれたとされる局員には話を聞かないなど、調査が不十分と思わせるものだった。“否認すればシロ”という慣例を通したのかもしれない。
「通報者だったら、絶対に潰す」
父親である副主幹統括局長が動き出したのは、調査が中途半端に終了したあとだ。2019年1月に、通報者と疑う郵便局長を一人ずつ呼び出しては尋問のように事情を聴き、通報行為そのものも糾弾した。冒頭の局長も糾弾されたひとりだった。
1月24日の音声データには、副主幹統括局長のこんな言葉も残っている。
「局員から(通報が)上がったら、そりゃしょうがない。局長から上がったのが、俺は許せんかった」
「局長の名前が(通報者として)のっとったら、そいつら、俺がやめた後でも絶対に潰す。どんなことがあっても潰す」
「そこにおまえの名前はないね。あるいは名前をのせとったやつをおまえは知らんか?」
「誰に誓ってでもやってないな? 後で絶対、おまえの名前は出てこないな?」
副主幹統括局長はドスのきいた怒声と優しい声音を使い分けながら話し、言われた郵便局長は終始、震えた声で応じた。