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 業務時間外の活動があることは覚悟していたが、お金がこれほどかかることは局長になってから初めて知った。当たり前のようにお金を徴収されるばかりで、後戻りできる余地はなかった。

 これが日本郵便という企業で、局長ポストに就くためのプロセスとして常態化している。地域によって差異はあるものの、政治活動への参加を約束させ、局長会組織に強制的に加入させる構図は全国共通だ。

ある人事担当課長の告白

 福岡地方検察庁の検察官が作成した1通の供述調書に、こんな言葉がつづられている。

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「会社が方針決定するに当たり、局長会の影響力はとても大きいと感じる。昔から俗に、会社は『表』、局長会は『裏』と呼ばれてきた」

 日本郵便九州支社に所属する49歳の人事担当課長が2020年12月、福岡地検の任意の事情聴取に応じたときに作成されたものだ。地検が捜査していたのは、九州支社の副主幹地区統括局長だった男が配下の局長をつるし上げた脅迫行為だ。

 局長会が会社の局長人事に圧倒的な影響力を及ぼすことは、日本郵政グループ内では「公然の秘密」だ。ただ、それが公に語られることはめったにない。

 ところが、2021年5月にあった脅迫事件の刑事裁判の冒頭陳述で、福岡地検は旧特定郵便局の局長について「局長会の推薦、研修などを経て採用試験を受け、採用後は局長会に加入するのが通例だ」と明かし、日本郵便での局長の役職と局長会の地位が「事実上連動していた」と指摘した。「公然の秘密」がいよいよ公の舞台で語られ始めた瞬間だ。

 日本郵便社長の衣川和秀は続く6月の記者会見で、福岡地検の指摘を強く否定し、局長人事について「局長会でお決めになったことを追認するようなことはない」と反論した。日本郵政で人事担当役員も務めた経歴を持つ衣川だが、実際に局長会側が先行して決める地位と日本郵便が人事で決める局長の役職がほぼ一致していることは、“偶然の一致”なのだとまで主張してみせた。

衣川和秀(画像:日本郵政サイトより)

 しかし、福岡地検の指摘には当然ながら、根拠があった。人事担当課長の供述調書には、局長の採用から昇格に至るまでの人事の構造が、詳細につづられていた。しかも、証言したのは課長一人ではない。福岡地検は複数の人事担当者に加え、被疑者を含む計3人の統括局長経験者も聴取し、局長会による人事への介入を確認していた。

 日本郵便の社長が堂々と否定した福岡地検の指摘は、のちに刑事や民事の地裁判決でも事実として認定されていく。ウソをついたのは、日本郵便社長のほうだったのだ。大企業のトップがなりふり構わず虚偽の説明まで繰り返すのはなぜか。たがの外れた企業ガバナンスの醜態を隠すためだったに違いない。