役所は「脚本には泣くと書いてありましたが、監督からは泣いても泣かなくてもいい、と言われたんです。でも、そこで流れる音楽、ニーナ・シモンの『Feeling Good』が希望というか、元気づけるような歌詞だったので、僕としては難しかったですね」と泣き笑いの秘密を語ってくれた。
「スベってしまいました(笑)」と語った役所のジョーク
受賞後の公式記者会見では、会場を埋めた世界各国の記者たちから一際大きな拍手で迎えられた。平山が毎日決められたように同じ行動を繰り返すことが儀式のように見えるらしく、フランス人の記者から「役所さんにも平山のように、毎日こなす儀式はありますか?」と聞かれると、役所は「毎日トイレにはよく行きます(笑)。上手く行くときと、行かない時がありますが。特に儀式というのはないかな」と言って、会場を沸かせた。
このように、どんな時でもユーモアを欠かさない。日本人はスピーチが苦手だと言われるが、今回も授賞式の壇上で「僕は賞が大好きです」と言ってから、受賞の弁を述べるなど、そこかしこに笑いを挟む。これはその前の登壇者が「男性は賞が好きですよね」と言ったことへの、役所なりのジョークだったのだが、その後の会見で「スベってしまいました」と笑っていた。
また謙虚さも大きな魅力だ。ヴェンダースを始め、周囲に男優賞を獲れるといくら言われても信じられなかったようで、「欧米の人は褒めるのが上手いから」と笑っていた。すでに今年度のアカデミー賞など国際的な映画賞に絡むのではという声も、海外のメディアからは出ていた。
実際そうなって欲しいという声は多い。しかし、そう言われても名優はきっと「褒めるのが上手いから」と優しく微笑むだけだろう。
撮影/石津文子
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