ジェイミー・ドーナン「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(2015)
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』はサディスティックな大企業のCEO男性が女子大生と秘密の“SM契約”を結ぶ映画ですが、私は「SMの映画」ではないと思うんですよね。女子大生役のダコタ・ジョンソンが怯えるくらいSMグッズがたくさん出てくるし、セックス自体も激しいけど、どのカットもとても美しい。それはこの映画が、愛を知らない2人の悲しい物語だからなんです。
ジェイミー・ドーナンは日本ではそこまで有名ではないかもしれませんが『マリー・アントワネット』や『ベルファスト』に出ている男性俳優で、カッコ良過ぎないからこそリアルにフェロモンを醸し出すんです。
「プレイの1つ1つがドーナンの心情を反映している」
大企業のイケメンCEO役のドーナンは初めは自信家のプレイボーイに見えます。でも徐々に「自分が受け入れてもらえる」という自信がなく、それを確かめるために行為をエスカレートさせてしまう“弱い男性”なことがわかってくる。
その過程を表現するのが、2人の度重なるセックスシーンです。目隠しや拘束、ムチに羞恥、あらゆるプレイが登場しますが、その1つ1つがドーナンの心情を反映している。
私はSMの女王様とも親交があるんですが、SMにおけるSって、Sを演じているけどMでもあるんですよね。自分が愛されているということをなんとかして確認したいあまりにそういうプレイに及ぶしかない。そんな切なさがムチの振り方や表情で表現されているんです。
シリーズは3作目まであって、2作目からはドーナンの異常性が加速してダコタが離れていき悲しみも増していくんですが、私は1作目のドーナンの不安と信頼が入り混じった演技が最高に好きなんです。