1ページ目から読む
3/3ページ目

 ここまで5作品を挙げてみて気づきましたが、『エゴイスト』以外はなんとも悲しい、幸せとはかけはなれたセックスばかりですね(笑)。愛し合っている2人も美しくて素敵だけど、頭では迷いながら本能で求め合ってしまうセックスが、私の弱点なのかもしれません。

 でもちょっぴり捻ったものに魅力を感じるのは私だけではないと思いますがどうでしょう。

オリヴィエ・マルティネス 「運命の女」(2002)

 最後に紹介するのは、当時世界で一番の人気女優だったダイアン・レインが、リチャード・ギア、オリヴィエ・マルティネスという2人の男性と共演した『運命の女』。

ADVERTISEMENT

オリヴィエ・マルティネス ©GettyImages

 ちなみにオリジナルのタイトルはUnfaithful。つまり「不貞な~」「浮気な」のような意味で、「運命の女」という邦題をつけた人はもしかしたら、道ならぬ恋に落ちる2人を応援したい気持ちがあったのかもしれません(笑)。でもそれもわかるくらい、オリヴィエ・マルティネスがセクシーすぎるんです。

 ダイアン・レインとリチャード・ギアはなんの不自由もない素敵な夫婦。でも妻のダイアンが風の強い日に転んで怪我をして、どこからどう見てもハンサムガイのオリヴィエに助けてもらうことで物語が始まります。

 唇はタコがジェラシーを感じるほど吸盤の様な形で、流し目がなんとも言えないフェロモンを醸し出すオリヴィエ。それに無精髭、フランス語訛りのアクセント、少し長めでサラサラの髪……。こんな人に声掛けられたら当然アパートに行きます!

 一目惚れしながらも家族のことを考えて最初はなんとか冷静さを保ちますが、男の魅力はそれを上回ります。

 そこからの激しい愛のシーンの数々も圧巻です。まるで戦いながら何かを必死に探すような唇と唇、特にオリヴィエの唇の動きが素晴らしい。ここで少しでも躊躇があれば台無しですが、興奮で唇が膨れ上がったのではと思えるほど素敵。

 そして面白い演出として、愛のシーンを直接見せるのではなく、ダイアンがオリヴィエの家から地下鉄で帰るときに思い出してニヤニヤすることで、何があったのかを私たちに伝えています。つまり「浮気はダメ!」と観客が叫ぶ前に、もう2人は愛し合ってしまっているんです。

 

「喧嘩した後のセックスが一番気持ち良いという人も多いですよね」

 オリヴィエの少し暴力的・支配的なところも私は嫌いになれません。力づくでダイアンを抑えたり、軽く噛んでみたり、そして最高潮はカフェのシーンでしょう。

 女友達と一緒にカフェにいるダイアンを目だけでお手洗いに誘い、そこで交わされる愛。男性の独占欲と、ドア1枚向こうでは友達が普通にコーヒーを飲んでいるのに自分に負けてしまう女性の情欲が爆発しています。

 そんな2人なので喧嘩もしますが、喧嘩した後のセックスが一番気持ち良いという人も多いですよね。映画の中の2人もそうです。オリヴィエは後ろからダイアンを抱きますが、その激しさの表現がぐっと来ます。

 女性の“もうどうにでもして”という気持ちと、男性の“俺はモテるはずだ"“失いたく無い”“でもこれが最後かも”という気持ちが入れ乱れる。なので一見すると激しいだけに見えて、後ろからダイアンの背中に顔をつける必死さが愛おしい。全く気持ちがない場合は直立だったり、顔を反らしたりするでしょう。

 私はこの2人のセックスシーンを思い出すだけで毎回ニヤニヤしてしまいます。それはダイアン・レインも素晴らしいけれど、それ以上にオリヴィエ・マルティネスのセクシーさがすごいから。

映画コメンテーターとしても活躍するLiLiCoさん

 日本でも、映画やドラマでセックスシーンをちゃんと描こうという意欲を持った作り手が以前より増えてきていると思います。『ドライブ・マイ・カー』の西島秀俊さんと妻の霧島れいかさんのシーンや、西島さんが霧島さんの不倫を目撃するシーンの演出も良かったですし、この流れが続いてくれたら私は嬉しいです。

 だから映画を観る私たちも、他の場面と同じようにどこが良かったのか、何が上手だったのか、どんな意図で演技しているのかを自然に話せる世の中になるといいなと思っています。