「彼の故郷の江蘇省と福岡県は30年以上も友好提携を結び、江蘇系の日中友好団体が多い。許剣はこれら複数に出入りし、反体制的な在日中国人の情報を本国に密告していた」
このような証言もある。事実とすれば、自治体間の友好提携を踏みにじる振る舞いとしか思えない。
なお、こうした「海外派出所」の設置が、「外交関係に関するウィーン条約」に違反することはすでに述べた。その業務の実態にかかわらず、日本政府の許可を得ることなく南通市公安局の出先機関が日本国内に設置された時点で、中国による明確な主権侵害となる。
理系の中国人留学生をリストアップ
海外派出所所長・許剣の活動はそれだけではない。たとえば2017年8月、中国駐福岡総領事館内で設立集会が開かれた、とある日中交流団体がある。これは日中友好を通じた産業・学術・研究の相互促進を標榜する一般社団法人なのだが、許剣が副理事に就任している。
関係者の一人はこう話す。
〈「旧帝大の九州大学を筆頭とする九州の大学全体で、約1万人の中国人留学生がいる。彼らのうち優秀な人材に対する中国共産党への入党スカウトや、理系の先端技術を持つ人材のリストアップをおこなっていた」
日本側の情報関係筋からは、このような証言もある。
「駐福岡総領事館の監督のもと、九州地区の中国人留学生や在日中国人の言動を調査し、反体制的傾向があると判断した人物について報告しているとの情報を得ている」〉
肝心の許剣はどう答えるのか? 筆者は取材の過程で一度は許剣本人と携帯電話が繋がったが、事情は前出の一般社団法人の代表理事に尋ねてほしいと話し、その後は連絡が取れなかった。
一方、福岡市内に拠点を置く同団体を直撃したところ、在日中国人の代表理事は「(許剣の)プライベートなことは知らない」などと、不自然な回答に終始した。
反体制派を恫喝した「黒シャツ男」
中国による反体制派の脅迫は、日本国内でも観察されている。
〈「中国東北部の訛りのある言葉を話す、龍が描かれた黒いシャツを着た中年の男2人が、滋賀県草津市内にあった僕の家に来た。そして、『お前は中国の法を犯した』『逃げられると思うな』と恫喝してきた」