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ハイフィールド教授との運命の出会い

 ここで、浩宮の指導教官になったのが、ロジャー・ハイフィールド教授である。戦前のオックスフォードで学び、専門はスペインの中世史。第2次大戦中、軍の情報部に入って、イタリアや旧ユーゴスラヴィアに配属された。戦後は大学に戻って、学生たちの指導に当たった。

 そして、浩宮にとって、ハイフィールドは、特別な存在になったようだ。それは、今年4月復刊された回顧録、「テムズとともに」から伺える。

 「先生は50歳から60歳の間に見えるが、独身で、コレッジ内部に住んでおられる。白髪でいかにも度の強そうな眼鏡をかけ、その風貌といい、冗談を言われる時とかすれちがった時にちらりと見せる笑顔といい独特の雰囲気があり、ほうきにまたがって飛んでいく魔法使いを思わせる。私は入学の直後から必ず毎週1回、自室に先生の訪問を受け、勉強の進捗状況を話し、その後先生に伴われてオックスフォードの歴史的建造物を見る散歩に出かけた」

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 「道すがらうかがった先生の説明は、私にオックスフォード市の歴史およびテムズ川とオックスフォードの人々との関係の歴史へと興味をかきたてるのに十分であった。私はこの時一種の知的興奮を覚えたことを今でも鮮明に記憶している。と同時に、雨ですべるから気をつけるようにと私に注意され、自らは見事に転ばれた先生の姿も強く印象に残っている」

オックスフォード大学マートン・カレッジの構内 浩宮の部屋は、3階の右端(筆者撮影)

とてつもない手間のかかる研究活動に勤しんだ日々

 こうして、ハイフィールド教授との付き合いが始まるが、テムズ川の水上交通と言っても、参考書などない。関連する記録を見つけ、1つに結びつける作業が必要になる。

 そこで、浩宮は、まずオックスフォードシャー州立文書館で、テムズ川を通った船の裁判記録を手に入れた。当時、輸送中に事故があると、船主や輸送量が記録された。次に、ボドリアン図書館へ行き、18世紀の「ジャクソンズ・オックスフォード・ジャーナル」という新聞を読んだ。そこに、テムズ川の航行を管轄した委員会の記述があり、通行規則が分かる。

 さらに、ロンドンの金融街シティの図書館を訪ね、18世紀の保険会社の記録を閲覧した。そこで、川沿いの商人や船頭の財産、保険料を確認できる。こう言うと、すごく簡単に映るが、じつは、とてつもない手間と忍耐を伴う。それは、あたかも、砂浜に落ちた針を拾い集めるのに似ていた。