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 さらにこの働き方を拒否しようものなら、上司が社長に「あいつはやる気がない」と内通し、無理やり退職へと追いやるということもあります。 

写真はイメージです ©iStock.com

身内の危篤よりも仕事

 仕事は基本的にとても好きですが、デザイン事務所で働いていて一番辛かったことがあります。辞めようと思うほどつらい出来事でした。

 その日もいつも通り働いていました。冬の大きなキャンペーンに向けてデザインを粛々と進めていました。とても忙しい状況だったので、何週間も泊まり込み勤務中でした。

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 仕事に追われている時に、母から携帯に着信がありました。祖母が危篤状態との連絡です。電話を終えた僕は、仕事を終わらせてすぐに実家に帰らなければいけないと思いました。ですが、その日も仕事が山積みです。頭の中は焦りで埋め尽くされてしまい、結局夜まで働きました。

 そして、夜9時に上司と先輩と僕の3人で打ち合わせがありました。そこで意を決して上司に状況を伝えることにしました。「祖母が危篤状態なので、明日実家に帰りたいのですが大丈夫でしょうか?」と相談しました。

 上司はかなり渋っていて、今は大変な時期だからひとりでも欠けるときついというようなことを濁しながら言っていました。

 その時、隣にいた先輩はまともな人だったので、「帰ったほうがいいよ」と言ってくれました。

上司から言われた衝撃的な一言

 なんとか上司からも休むことを許可してもらい、翌日は帰省することができました。しかし、その時に捨て台詞のように吐かれた上司の言葉が今でも心に引っかかっています。

「帰ってもいいけど、私なら帰らないけどね」

「帰るのはいいけど自分の将来のことも気にしなさいね」

 人の生き死にの時にこんなことを言ってくる人間がいることが衝撃的でした。こんな血も涙もない人間と一緒に仕事をしなきゃいけないのか。家族を犠牲にしてまでつづける価値のある仕事なんだろうか。

 この出来事が起きるまではデザインが好きで、仕事のためならいろんなことを犠牲にしても仕方ないと思っていました。その価値観がこの一件で大きく変わりました。 

 仕事はしながらも大切な人との時間は大事にできるような人間を目指していきたいです。

 ちなみに上司は10年以上帰省もしていないようです。