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正しく磨けば歯磨きは1日1回でもいい…大学病院の歯科衛生士「患者の8割が陥る"歯磨きの大間違い"」

source : 提携メディア

genre : ライフ, ヘルス

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“全身的な理由”には他科との連携が含まれる。そして、歯科口腔外科のもう1つ重要な仕事が、手術の前後に行う周術期口腔機能管理(口腔ケア)である。

全身麻酔をする手術においては、誤嚥性肺炎などの術後合併症を予防し、気管挿管の際に歯が抜け落ちてしまうのを防ぐことが重要になる。その重要性は広く周知されており、平成24年度より保険適応となっている。

写真=中村治 - 写真=中村治

成人の約8割が罹患する「歯周病」の恐ろしさ

そこで一番の問題となるのが、歯周病だ。

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歯周病とは、歯周病菌が歯茎の炎症を起こし、進行すると歯を支えている骨を溶かす病気である。歯周病の原因となるのは、プラークと呼ばれる細菌の塊で、1mgの中に1億~10億もの細菌が存在する。

「歯周病菌が厄介なのは、菌が血液の中に侵入し、感染を起こすことです(菌血症)。それは抜歯をするときだけでなく、歯磨きでも一過性の菌血症になると言われています。歯周病菌が全身に回り、心臓弁や心内膜に到達すると、感染性心内膜炎を発症します。

また、口腔内の汚染が強い状態で気管挿管を行うと、歯周病菌が挿管チューブを伝って気管に入り、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります」

心臓に限らず、あらゆる疾患において、「口腔ケア」は重要な役割を担っている。たとえば食道がんや喉頭がんの手術を行う際に口腔ケアを行うと、術後合併症が少なくなり、退院までの日数も短縮されるというデータがある。

現在では、消化器がんの手術、心臓手術、胸部外科手術をはじめとして、化学療法を行う症例でも口腔ケアが実施されている。一見無関係と思われる整形外科手術(人工股関節置換術など)でも、心臓と同じように口腔ケアを実施している。

そして、歯周病は歯を失う要因ともなる。

歯周病は知らないうちに進行し、気づいた時には重症化していることも多い。そのため、サイレント・ディジーズ(静かなる病気)とも呼ばれる。

日本人が歯を失う原因で、40代後半以降で最も多いのが歯周病である。成人の約8割が歯周病にかかっているとも言われ、もはや国民病である。