「合意型」の日本が手強いイギリスに勝つために
そしてもうひとつ、カーリングの魅力として挙げられるのが「意思決定モデル」が競技を通して見えてくることである。
カーリングは、とにかく即断即決を求められる競技だ。
私はトリノ・オリンピックを見て刺激を受け、素人カーリングを一時期熱心にやっていたが(最近はごぶさたです)、素人でさえもめまぐるしく変化する状況の中で、パッパッパッと判断していかなければならない。迷ってもいいのだが、決断したら後悔してはいけない。
ただし個人競技ではなく、4人でプレーするから、意思決定に加えて、「合意形成」をしなければならない。
カーリングが技術力の高い選手4人を集めて代表チームを作るのがむずかしいのは、合意形成が必要だからであり、寄せ集めのチームではすぐに意見の齟齬が出てきてしまう。
その意味で、カーリングは極めて政治的なのである(チームメンバーの離合集散が珍しくないのも、極めて政治的だ)。
面白いのは、合意形成プロセスにチームカラーが反映されるようになることで、私が見てきた中では、次の3パターンに分類される。
● 勝負どころで会議が開かれる「合意型」
● 強力なリーダー、年長者がいる「トップダウン型」
● スキップとバイススキップによる「ツートップ型」
日本はご想像の通り、「合意型」だ。藤澤、吉田姉のコミュニケーション力が光るが、むずかしい局面では4人が集まって合意を形成する。
ある意味、日本の社会を反映しているとも言える。
強国カナダの場合は、10代からスキップとして育てられてきた選手が、強力なリーダーシップを発揮する。しかし今回、男子準決勝でカナダのスキップ、ケビン・コーはアメリカ相手に苦戦を強いられ、終盤になって不安が表情に出ていた。こうなると、トップダウン型は弱い。
さて、銅メダルを懸けた試合の相手、イギリスはどうか。このチームは手強い。
前回のソチ・オリンピックの銅メダルチームであり、スキップのイブ・ミュアヘッドはゴルフの腕前も一級のアスリートであり、今大会には兄と弟も参加しているカーリング一家の出身だ。
ミュアヘッドは強力なリーダーシップを持っているが、彼女にはアナ・スローンという1歳年下の相棒がいる。苦しい場面ではふたりで相談している場面が多く、「ツートップ型」の合意形成プロセスを持つ。
日本は、ふたりの意見が衝突するような局面を多く作りたい。
カーリングの面白さは、氷上だけでなく、相手の意思決定プロセスを揺さぶることでもチャンスが生まれることにある。
イギリスを揺さぶるんだ、日本。