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「両利き」目指す元長官

 ソニーフィナンシャルグループ(FG、岡昌志社長兼CEO)は、社長兼CEOに元金融庁長官の遠藤俊英氏を起用することを発表した。

遠藤俊英氏 Ⓒ時事通信社

 金融機関の「お目付け役」である元金融庁のトップが、ソニー銀行(南啓二社長)やソニー生命保険(萩本友男社長)などを統括するソニーFGの社長の座に就くことに、金融業界では驚きの声が広がる。

 2018年から2年間長官をつとめた遠藤氏は、霞が関に珍しく現場主義を徹底することで知られている。風貌から強面と評する向きもあるが、温和な性格で、前任の元長官・森信親氏とは対照的だ。

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 そんな遠藤氏の座右の書は、スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授の『両利きの経営』(東洋経済新報社刊)。両利きの経営とは、既存事業の改善・強化と新規事業の実験を両立させる「二兎を追う」戦略のことだ。

『両利きの経営』

 遠藤氏はこの本にいたく感銘を受けたようで、金融庁長官就任後に開いた地方銀行の頭取を集めた会議で、「この本はすばらしい。ぜひ手に取ってみてください」と紹介している。

 今度の社長内定時も「さらなる成長と進化を実現するため、深化と探索の『両利きの経営』をおこなっていく」とコメントを出している。

 元金融庁長官が金融機関のトップに就くことに「利益相反ではないか」との批判はある。

 ソニーFGといえば、21年、傘下のソニー生命の元社員が英領バミューダ諸島にある子会社の口座から約170億円を米銀口座に不正に送金する詐取事件を起こしている。

 長官時代の遠藤氏は「節税保険」を推進する生保業界に苦言を呈していたが、今後は自らの言がブーメランのように跳ね返ってくる局面も少なくないはずだ。

丸の内コンフィデンシャル」全文は、「文藝春秋」2023年7月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。