初の著書がベストセラーとなり話題の石井哲代さんと、小学校教諭時代の教え子である尾道市立大学・小川長教授による講演会を収めた「歌う哲代おばあちゃん103歳!」を一部転載します。(月刊「文藝春秋」2023年6月号より)

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 4月8日、尾道市・しまなみ交流館大ホールで、初の著書『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』(小社刊・中国新聞社共著)が17万部を超えて話題の石井哲代さんと、小学校教諭時代の教え子である尾道市立大学・小川長教授が講演会を開催。思い出話、教育論、長寿の秘訣……様々な話題で盛り上がった。

哲代おばあちゃん

 石井 皆さんこんにちは。100歳過ぎたもんがこんな舞台に出ていいんでしょうか。申し訳なくて、こもう(小さく)なりそうです。

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 小川 石井哲代先生の人気がすごくて、今日は700人の会場が満席になりました。この講演会は、僕のゼミの催しなんです。4月に65歳になりまして、年度末に定年退職なんですね。こちらに赴任して13年ほど、尾道の方々には本当にお世話になりましたので、皆さんに恩返しをしたいと思いまして。

 それで恩師の石井先生に、「講演会をやろうと思うので、手伝うてください」と言ったら、「ああ、ええよ」と。虎の威を借る狐みたいな(笑)。そんなわけで、どうぞよろしくお願いします。

 石井 大きな会館ですねえ。

 小川 上の階までお客さんぎっしりですからね。来年は東京ドームでやりましょうかね。

 石井 いやいやいや(笑)。

 小川 僕は尾道の隣町の三原で生まれて、三原小学校に通っていたんですが、1、2年生のときの担任が石井先生だったんです。

 中学3年のときに親の転勤で三原を離れて以来、先生にはずっとお会いしていなかったんですね。その後、52歳になって、たまたま尾道市立大学に就職をしまして。

 今から10年くらい前、大学に新しく入った総務課長が石井さんというお名前だったので、お住まいを尋ねたら、先生と同じ町だったんです。それで「石井哲代先生ってご存じないですか?」と聞いてみたら、課長が「ああ、うちのおばです」と。

 翌日、総務課長が「おばが『ああ、よう覚えとる。電話してくれ』って言うとる」と電話番号のメモをくれたんです。それで先生と数十年ぶりにお会いできることになって。

 石井 そこからまたお付き合いが始まって、ずっと続いとります。

 小川 石井先生も、僕が教育の現場で働いているということを非常に喜んでくださいまして。

 石井先生が出された本の帯に、「長う生きたら、まるく、かわいくなりました。」と書いてありますけど、確かにそうですね(笑)。僕の担任だったときの先生は、タイトなスカートのスーツを着て、シュッとしていましたから。(スクリーンに入学式の集合写真を映して)中央に座っているのが噂の石井先生。

哲代さん(最前列の左から6番目)と小川教授(最後列の左から5番目)

 石井 恥ずかしい、こんな写真があったんですか。でも、もっと褒めて(笑)。

 小川 美人だしね。優しいしね。このぐらいでいいですか(笑)。僕は覚えていないんですが、おふくろが言うには、入学式を終えて家に帰ってきた僕が玄関で第一声、「うちの先生、おばあちゃんみたい」と言ったと。当時、たぶん先生は40代後半だったと思うんです。

 石井 子どもにはおばあちゃんに見えたんじゃね。(写真を見て)かわいらしい子がいっぱいおるね。