又吉克樹がトルネード投法に取り組んでいる。6月が中旬に差し掛かる頃、そんな風にメディアで取り上げられた。

 中日ドラゴンズからホークスに移籍して2年目の今季は、開幕1軍メンバーに名を連ねて5登板連続で無失点に抑えて3ホールドもマークしていた。しかし、4月18日の西武戦(東京ドーム)で本塁打2発を浴びて0回2/3を3失点と打ち込まれると、その後まもなくファーム降格となった。

 それから、又吉はずっと2軍調整が続いている。

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 一見すれば、たった1度の失敗なのに厳しすぎる措置と思われるかもしれない。だが、今年の又吉はずっと違和感を覚えながらキャンプから過ごしていた。

又吉克樹 ©時事通信社

1年前の自分に戻れる道筋は見えたが……

 昨年との違い。それは、足の横幅で約1足分だけだったと思う。

 だけどピッチャーとは繊細な生き物だ。微差が大差を生む。今年は春先から、投球の際に左足を踏み出す位置が昨年よりも左側にずれていた。又吉はインステップで投げるタイプの投手なのだが、捕手方向に真っすぐ踏み出していたのだ。インステップは“悪”ととらえる指導者もいるが、骨盤の形状によってはその人にとってそれが真っすぐ踏み出しているのと同様になると唱える専門家もいる。また、体の出来上がっていない年齢であれば負荷が大きいためおススメできないが、プロ野球選手で何年もメシを食っているような選手であれば話は別だ。

 本来インステップで投げる又吉が真っすぐ踏み出してしまうと、体の左側に作らなければいけない「壁」が甘くなる。つまりボールの強さやキレ味が1ランクも2ランクも落ちてしまうのだ。実際、球速も昨年は140キロ台中盤を超えていたストレートは140キロ台前半しか出せなくなっていた。

 それでもオープン戦から開幕しばらくまで抑えられたのは、又吉の「顔」のおかげだ。初めのうちは打者たちもイメージとのギャップに戸惑う。また、又吉といえば抜群の制球力を誇る。コントロールを間違わないから、ある程度は抑えられるのだ。

 だけど、しっくりこない。

 それは誰より又吉本人がずっと気づいていた。

 2軍調整となって、又吉は当然そこの修正に取り組んだ。結論から言えば、インステップの投球フォームはすぐに取り戻せた。

 5月中旬頃の応急処置が効いた。投手プレートの三塁側ぎりぎりから投げていたのを、一塁側ぎりぎりに変えて投げてみた。「どうしても早く投げようとして、体が開き気味になっていた」。プレート一塁側からベースのど真ん中をめがけて体を移動させようとすれば、必然的に左足は踏み込むようになるし体の開きも抑えられる。左側の「壁」ができて右腕を振りぬくことで140キロ台中盤強の球速もこの頃には戻ってきた。

 1年前の自分に戻れる道筋は見えた。昨年は7月に右足を骨折するまで1軍戦31試合に登板、防御率2.10、3勝14ホールドの好成績で必勝リレーに欠かせぬ存在だった。

 あとは微調整をしながら戦える準備を整えるだけ――。

 だが、又吉はあえて近道を選ばずに、新たな挑戦をすることを決めた。それがトルネード投法だった。