「そういう仕事をしてたら、プロ野球選手と仲良くなれるんじゃないの?」
昨年までの4年間、ジャイアンツ公式マスコットガール「VENUS(ヴィーナス)」として活動していた時、会う人会う人に必ずそう聞かれました。
他球団のことはわからないのですが、これは声を大にしてお伝えしたいと思います。一切ありません!(笑)
選手とヴィーナスが鉢合わせしないよう、スタッフの方々によって導線がきちんと管理されているのです。私たちが選手と近づくのは、試合後のヒーローカーを運転している時くらいです。
でも、私はこの絶妙な距離感だからこそ、心からジャイアンツを応援できたと考えています。今は現役女子大生で、フリーアナウンサーとしても活動している私ですが、今回のコラムでは元ヴィーナスの視点からジャイアンツについて語らせていただきます。
オーディションは連戦連敗
2人の兄が高校まで野球をやっていたため、私の日常には野球がありました。実家の近くの球場にプロ野球の試合を見に行くことも多く、グラウンドで華やかな衣装をまとったチアガールが踊っている姿も見てきました。
テレビで見たダンス番組をきっかけに、小学6年生からダンスにハマりました。そのうち中学生になるとヒップホップダンス、フラダンスなど、さまざまなダンスを学ぶようになりました。高校時代にはフラガールズ甲子園(全国高等学校フラ競技大会)に出場したこともあります。
ダンスに情熱を注ぐと同時に、私は中学3年生の時から事務所に所属して芸能活動を始めました。自分のことが「かわいい」なんて思っていませんでしたが、ある日、原宿に遊びにいった時、1日で5枚くらいもスカウトから名刺をいただいて舞い上がってしまったのです。
でも、いざ事務所に入ってみて、私は現実を思い知りました。受けるオーディションは連戦連敗。最初はへこみもしましたが、次第にその感覚もマヒしていきました。いつしか「落ちるのが当たり前。受かれば奇跡」と思うようになっていました。
周りを見渡せば、かわいくて細くて、スタイルのいい子ばかり。「あ、私には無理なんだ……」と思い知らされる日々でした。それでも、「自分に向いてるものがあるかもしれない」と、できることはなんでもやらせてもらいました。エキストラ、PVのバックダンサー、アイドル……。そして18歳になった秋、母から「受けてみたら?」と勧められてプロ野球のチアガールのオーディションを受けることにしたのです。
受けたのはベイスターズとジャイアンツの2球団。結果的にベイスターズは不合格で、ジャイアンツから合格をいただくことになります。
巨人軍は紳士たれ。ヴィーナスは淑女たれ?
野球ファンのみなさんからすれば、「チアガールなんてどの球団も同じでしょ?」と思うかもしれません。でも、実は球団によってカラーが全然違うのです。
一番わかりやすいのは、チアガールグループの名称です。たとえばベイスターズのdiana(ディアーナ)さんは「オフィシャルパフォーマンスチーム」で、ジャイアンツのヴィーナスは「球団公式マスコットガール」。ベイスターズはダンスのパフォーマンスに力を入れていることがうかがえて、ジャイアンツは「マスコット」という要素に重きを置いていることがわかります。つまり、ダンス以外にもトーク力や雰囲気も求められます。ジャイアンツではヴィーナスはジャビットくんと同じカテゴリーなのです。
どの球団もチアガールのパフォーマンスは素晴らしかったですが、印象的だったのはジャズやバレエの要素を取り入れたDeNAのディアーナさん。ガチガチのヒップホップダンスだったヤクルトのPassion(パッション)さん。ソフトバンクのハニーズさんやロッテのM☆Splash!!さんもハイレベルでした。
私はダンス経験があるといっても、チアダンスは未経験。ベイスターズの求める人材にはマッチしなかったのでしょう。一方のジャイアンツはチアダンス未経験者もいて、「入ってから頑張ろう」というムードがありました。
ほどなくして開幕に向けて研修が始まりました。1日5時間ほどの時間をかけて、ダンスレッスンから座学までみっちり。座学では野球の基本的なルールからレクチャーを受け、ジャイアンツの選手名と背番号も覚えました。
てっきりダンスだけやればいいのだろうと思っていた私でしたが、座り方、歩き方、言葉遣い、メールの送り方に至るまで細かく教わることに衝撃を受けました。「巨人軍は紳士たれ」という言葉がありますが、ヴィーナスにも同じことが求められるのです。
ダンスもチアに慣れるまでに時間がかかりました。チア(cheer)はその名の通り応援のためのダンスで、それまで私がやってきたダンスとは180度違っていたのです。滑らかな動きを求められるフラと違って、チアは力強くメリハリのある動きが求められます。また、ヒップホップを通して猫背の姿勢が染みついていた私は、背筋を伸ばすよう何度も指導されました。
チームとして踊る難しさも感じました。振りを合わせなければいけないんですけど、練習しても練習してもなかなか合わないのです。
そして、先輩方から繰り返し言われていたのは「私たちは主役じゃない」ということです。パフォーマンス中に「目立とう」という意識はいらない。一人ひとりがエネルギーを込めて、それを選手やスタンドのみなさまに届ける。その意識を徹底的に植えつけられました。