初めてのお立ち台に「なんかボーッとしてたら僕だったんで、ちょっと緊張してます」
プロ6年目の初勝利は、思わぬ形で転がり込んできた──。
「あのー、ホントびっくりして。自分じゃないなと思ってたので、なんかボーッとしてたら僕だったんで、ちょっと緊張してます」
ヤクルトの今季交流戦ラストゲームとなった6月20日の楽天戦(神宮)。3番手として2イニングを無失点に抑えて勝利投手となり、初めて上がったお立ち台でそう話したのは、サウスポーの山本大貴(27歳)である。
この試合、序盤から大きくリードしたヤクルトは13対0と圧勝。普通なら先発投手に勝ちが付く展開だが、そうならなかったのは今季初先発の金久保優斗が4回でマウンドを降りていたからだ。
公認野球規則により、先発投手は原則として5回以上投げなければ勝利投手にはならない。そうでない場合は「勝利をもたらすのに最も効果的な投球を行なったと記録員が判断した1人の救援投手に、勝投手の記録を与える」とある。この試合では、4人の救援投手の中でただ1人2イニングを投げた山本が「最も効果的な投球を行った」と判断されたことになる。
ようやく手にしたプロ初勝利。マウンドよりもはるかに緊張した舞台
試合を締めくくった抑えの田口麗斗からウイニングボールを手渡され、髙津臣吾監督との記念撮影に続いて上がったお立ち台。それは山本にとって、マウンドよりもはるかに緊張する舞台だったという。
「(自分の)番が近づくにつれて何か『ウッ』ってなって、ちょっと吐きそうになってました(苦笑)。ああいうみんなの前で喋るのって、昔から苦手なんですよ。マウンドに上がってるほうが全然気が楽なんだなって思いました」
思えば長い道のりだった。三菱自動車岡崎からドラフト3位でロッテに入団し、昨季途中にトレードされたヤクルトで、ようやく手にした初勝利。そこに至るまでに幾度も挫折を味わってきた。最初はプロ1年目の2018年、初めてのキャンプ中に行われた紅白戦での“乱調”がきっかけだった。
「緊張してストライクが入らなくて(投球)フォームも分かんなくなっちゃって、周りはみんなイップスって言ってたんですけど、あんまり認めたくない自分がいて。『下手くそなだけだ』って思うようにして、練習して練習して上手くなるまで何とかしなきゃと思ってやってたんですけど、ちょっと良くなってきても何かのきっかけでまたフォアボールを気にして、バッターと勝負できないというか。自分の気持ちと勝負しちゃってて『どうしよう、どうしよう』って、ネガティブな気持ちがすごい大きくなってました」
結局、このルーキーイヤーはファームで先発4試合を含む20試合に登板して2勝3敗、防御率6.35。10月10日には地元の札幌ドームで行われた日本ハム戦で一軍初登板を果たすも、3回4失点(自責点2)で敗戦投手というほろ苦いデビューとなった。
プロの投手が大学生相手に……1イニング7失点の「挫折」と屈辱
明くる2019年、プロ2年目を迎えた山本はさらなる挫折を味わうことになる。3月の東洋大学との練習試合に救援登板し、なんと1イニングで7失点。相手は東都大学リーグの名門とはいえ大学生。屈辱以外の何ものでもなかった。
「やっぱりプロ野球選手として、いくらファームとはいえども大学生相手にそういうピッチングは正直情けなかったというか。もちろん東洋大学っていう名のあるチームなので、やられるときはやられるんですけど、僕の場合はフォアボールを出して、ランナーをためて長打を打たれてっていう、勝手に自分1人でやられちゃったパターンだったので」
当時はひどく落ち込み「『野球やめたいな』っていう気持ちで毎日いました。さっさと(現役を)終わって普通に働いたほうがいいのかなとか、すごいマイナスなことしか考えてなくて」という。それでもファームの首脳陣らの支えもあって、この年は二軍で47試合に投げて1勝2敗1セーブ、防御率3.25。オフには外野手の岡大海、内野手の安田尚憲と共にプエルトリコのウインターリーグに派遣される。ところが──。