2021年10月31日、ハロウィーンで浮かれる東京を恐怖に叩き落した「京王線ジョーカー事件」。殺人未遂などの罪に問われていた無職の服部恭太被告(26)の初公判が行われた。男性を刺したことは認めたが、「(電車内にいた)男性以外が殺人未遂の対象になるかはわかりません」と起訴内容の一部を否認している。
電車という誰もが使う交通機関での卑劣な犯罪の記憶を風化させないため、当時の記事を再公開する。(初出:2021年11月1日。年齢、肩書は当時のまま)
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10月31日ハロウィーンの夜、新型コロナウイルスの蔓延で我慢を強いられていた弾みから、多くの泥酔した若者が集まり、いつも以上にカオスと化した渋谷。衆院選の投開票日にも重なり、岸田内閣で幹事長に就任した自民党の甘利明氏が敗れるなど、時代の変わり目を予感させる開票結果を多くの国民がテレビを見て過ごしていた――。
「キャー!」
「降りれる降りれる」
「落ち着いて」
突如、ツイッターにアップされた京王線の電車内の動画に、多くの人が驚愕した。
車内で逃げ惑う乗客に悲鳴、怒号…
炎が燃え盛る車両から走って逃げる乗客ら。怒号と悲鳴が飛び交う中、床には靴などが散乱している。
衆院選の開票作業が全国各地で始まる直前の午後7時55分ごろ、東京都調布市の京王線布田―国領駅間を走行中の新宿行きの上り特急電車(10両編成)で、まるでハロウィーンの仮装のような服装の男が突然刃物を振り回したのだ。
この電車に乗っていた山梨県上野原市の木村俊介さん(32)が車内の状況を振り返る。
「渋谷に行こうと思って電車に乗っていました。ちょうど真ん中あたりの車両でした。椅子には空きがあって、立っている人はいませんでした。19時57分ごろですかね、最初は5、6人の人が後方車両から走ってきた。ハロウィーンで騒いでいるのかな、と思ったら『マズいぞ』『前にいけ』と。消火器がどうのこうのと言っている人もいました。するとガスボンベが爆発したような大きな『ボン』という音が聞こえて、炎と煙が連結部から見えたので、前方車両に逃げました」