「兄の猿翁さんが率いるスーパー歌舞伎でも活躍されたほか、別の一座でも重宝されていました。段四郎さんは重厚な演技も得意でしたが、踊りも得意で軽妙な役もこなすことができる唯一無二の存在でした。
客を引き付けるような現代的で華やかなカリスマのあった兄に比べて、地味だけれども古典的なところをしっかり持った役者でした。だから兄とは別の一座でも違和感なく演じることができたわけです。脇役を正しい形で締めたといえるでしょう」
これまで段四郎さんの当たり役は、「神霊矢口渡」の頓兵衛や「助六」の意休、スーパー歌舞伎では「ヤマトタケル」の帝など。渋い声と確かな演技力を生かし、老け役でも存在感を放っていた。脇役というと影の薄い存在だと思われがちだが、段四郎さんはそれを愛していたという。
「脇役が好きだ」
「段四郎さん本人も脇役が好きだと言っていました。彼が脇を固めているとたしかに歌舞伎がぐっと面白くなるんです。素晴らしい存在でした」(児玉さん)
また、舞台写真家の福田尚武さんも、段四郎さんの努力家としての一面を次のように振り返る。
「兄の猿翁さんの写真をずっと撮っていたので、一座にいらした段四郎さんはよくお見かけました。お兄さんから熱心に演技指導を受けていたのを覚えています。猿翁さんはお客さんをいかに喜ばせるを考えていた方だったから、『そこはもっとクサくやりなさい』とか『客に媚びを売るように見栄をおおきくまったりと』といったことをおっしゃってた。
段四郎さんは猿翁さんから『お客さんに受けるとはどういうことか』を吸収なさっていたと思います。非常に勉強熱心な方で、時間があると歌舞伎座の2階から兄の演技だけではなく、他人の芝居を観ていましたね。自分には脇役が向いているというのをよく分かってらして、人の演技を見て研究していたんだと思います」