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バウアーと今永昇太、東克樹が思い出させてくれた大洋・遠藤一彦の凄さ

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/13
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今永と東のおかげでクローズアップされた遠藤の2つの記録

 先日今永がマークした1試合15奪三振は、遠藤一彦のもうひとつの大記録を掘り起こすこととなった。1979年5月27日、プロ2年目の遠藤は横浜での巨人戦に先発。その年のキャンプで覚えたばかりのフォークボールを武器に王貞治、張本勲のいる巨人打線から空振りを奪いまくって15奪三振。148球完投勝利を挙げた。その喜びを遠藤は自著『江川は小次郎、俺が武蔵だ!』(KKロングセラーズ)の中でこう書いている。

“巨人打線からの十五三振というのは、大変な自信になった。王さんからも、初めて三振を奪った。まさに平幕が横綱に勝って金星をあげた喜びと一緒のものではなかろうか。生涯、忘れ得ぬ三振である”

 遠藤はその後、シーズン最多奪三振を3度達成しているが、そのひとつの原点がこの15奪三振だったのだ。ちなみに、球団史上でもうひとり1試合15奪三振を達成したのは2009年9月5日のS・ランドルフ。本来先発登板の予定だったが、試合前のメンバー交換で誤ってR・グリンの名前を記載。ルール上グリンが最低打者1人に投げる必要があるため、初回1アウトを取った後でランドルフが登板し、残る8回2/3を毎回の15奪三振という珍しいパターンで記録を達成している。

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 さらにもうひとつ、東とリリーフ陣の奮闘、牧の土壇場でのホームランによる「延長戦1-0勝利」も、かつて遠藤が一人で投げ切って達成した記録だ。1983年9月18日のヤクルト戦(神宮)、遠藤と梶間健一の投げ合いで両チーム無得点のままゲームは延長戦に突入。そして10回表、先頭で打席に立ったベテラン・加藤俊夫捕手が左翼席に飛び込む値千金の勝ち越しソロ。ネクストバッターズサークルにいた遠藤は思わず両手を挙げて万歳のポーズ。エースはその裏を抑えて延長10回、12奪三振完封勝利を挙げている。

 40年前のこの試合は大洋が4年ぶりのAクラス入りを目指し、遠藤も最多勝を狙うシーズン終盤のタイミングだったが、CSなどない時代、神宮の観衆はわずか5千人。これが当時の現実だった。僕たちファンも「チームは弱いけど遠藤は最多勝だ!高木豊は盗塁王だ!」と、ひと言言い訳を付け加えてタイトルホルダーの誕生を喜んでいたのだ。

 でも今は違う。昔、孤高のエースが一人で成し遂げていたことを、アメリカからやってきた「投げる科学者」が、絶対的信頼感のある「投げる哲学者」が、見事に復活した「ハマのペンギン」が、互いに切磋琢磨しながら高いレベルで魅せてくれる。98年の大爆発ともまたひと味違う優勝争い。なんとか粘って、粘って、粘りまくって阪神に食らいついてほしい。

(参考資料)
神奈川新聞
遠藤一彦・著『江川は小次郎、俺が武蔵だ!』(KKロングセラーズ)

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