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ドラフト最下位指名、23歳の“圧倒的野球小僧”ソフトバンク・仲田慶介は支配下登録を勝ち取れるか

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/15
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 今年も「7月末」がやってきた——。

 この季節、ファームではやはりどこか独特な緊張感が走る。強い言い方かもしれないが、育成選手にとっての“シーズン終了”は7月31日。今季中に1軍でプレーするチャンスを得るためには、今月末の期限までに支配下登録されなければならない。

 4軍制が始まり、ホークスが抱える育成選手の数は54人。当然、12球団最多だ。可能性の芽を摘まない、夢の広がる一面もありながら、競争率はかなり高くなった。最も大きい背番号もホセ・オスーナ外野手の173となり、「ポケモン言えるかな」レベルだ。全選手の背番号を暗記するのが春季キャンプ中、自分に課す宿題でもある。

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 それほど育成選手がいながら、毎年残された「枠」が少ない状態でスタートするから当然倍率が高すぎる。支配下枠70人に対し、今年は67人で開幕。アルフレド・デスパイネ選手が帰ってきたことで残すはあと「2枠」に。つまり、育成から支配下になる倍率は27倍! 2軍で圧倒的に活躍していたら吉報は届くのだろうが、そもそも育成選手は2軍戦に出場するために、まず4軍、3軍で圧倒して這い上がらないといけない。厳しい世界だが、だからこそ、そこから這い上がってきた選手は強い。そんな選手が、いわゆる“育成の星”になれる逸材なのかもしれない。

 ホークスの育成選手の現状を見渡すと、この選手ならどんな状況、立場からでも這い上がってきそうだと思わせてくれる選手がいる。いつだって泥臭くがむしゃらに野球に打ち込んでいる。むしろ逆境を楽しんでいるようにも見えるし、逆境であれば逆境であるほど生き生きしているように映る。2021年育成ドラフト14位、全体ドラフトで128番目と“最下位”指名を受けてプロの世界に飛び込んだ仲田慶介選手だ。

仲田慶介選手 ©上杉あずさ

“1軍デビュー”前日に疲労骨折

 今季が2年目の育成選手だが、私の文春野球コラムで彼を取り上げるのはもう3回目になる。福岡大学時代に一度取材させてもらった縁もあり、また、その野球に取り組む姿勢に何度も心打たれてきた選手だから、ついついコラムを書きたくなる。取材意欲を掻き立ててくれるし、仲田選手の話だったら筆も箸も進む。「私も頑張ろう」と思わせてくれる存在だ。

 そんな仲田選手のプロ1年目は2軍戦36試合に出場し、打率は2割6分8厘。一番下から“下剋上”をやってのけるんだという気概を示すには充分な1年目だったと思う。強肩が持ち味の外野手として入団しながら、チーム事情もあり、主に二塁手としてプレー。入団前から、「内外野どちらも出来た方がいいだろう」とやってきた内野の“コソ練”がすぐに生きた。打撃では、バットを短く持ち、しぶとく食らいつく執念がにじみ出る。そんな姿は早くから首脳陣にもファンにも伝わっていた。だからこそ、2年目の期待値はより上がっていったし、仲田選手自身も活躍するための準備をしっかりと行ってきた。

 しかし、今季は何度も壁が立ちはだかった。キャンプから奮闘してきたが、オープン戦が始まる頃、実は肘に違和感を抱えていた仲田選手。一部別メニューとなったが、リハビリ組にはいかず2軍に帯同し続けた。気丈に食らいついていたのだが、その裏で大きなチャンスを逃していた。肘痛を申し出た直後に、実はオープン戦に呼ばれるはずだったことを知らされた。“1軍体験”の意味合いが強かったとはいえ、育成の仲田選手にとっては大チャンスだった。「(肘痛を)言わんどけばよかった」と後悔もしたが、「まだ早いってことですよね。まだまだもっと鍛え直さないと」と野球の神様からのお告げだと受け止めて前を向いていた。

 ただ、これだけでは終わらなかった。オープン戦終盤、仲田選手に再びのチャンス到来。育成ながら、オープン戦期間中に2度もお声が掛かるとは、やはり期待の表れだろう。しかし、めちゃくちゃ意気込んだ“1軍デビュー”前日のことだった。3軍戦のシートノック中に左足を負傷。まさかの骨折だった。野球選手には珍しいとされる中足骨の骨折。普段の練習で足に蓄積されていた疲労が、一気に爆発してしまった疲労骨折だった。その後、手術を受け、リハビリ生活が始まった。

 人一倍練習量が多いからこそ、ケアにも力を入れてきたが、それでも防げなかった。怪我もして、チャンスも逃して、「相当悔しいです」と吐露していたが、簡単に折れる男ではない。この逆境でまた強くなろうとしていたのだった。

 術後、痛々しいギプスを付けてリハビリ組の練習に現れた。当初はかかとしか地面に着けたらいけないと言われていたが、仲田選手は「かかとは着けていいので」と言って退院後すぐに打撃練習を再開した。

片膝をついて打撃練習する仲田選手 ©上杉あずさ

「もう普通に歩けるんです」と笑顔で足を引きずりながら歩いてきたこともあった。無理しているとか焦るとかそんな感じではなく、「待て」が出来ない子犬のように、目の前の野球に鼻息荒くかぶりつくような、そんな感じ。本人にとっては普通なのかもしれないが、仲田選手の溢れ出す“野球小僧感”は微笑ましくついクスッと笑ってしまう。リハビリに励む姿から、更に仲田選手の魅力を感じた。

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