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いつも変わらない圧倒的“野球小僧感”

 支配下登録の期限まで時間がないからこそ、リハビリ期間中に仲田選手は決めていた。「復帰したら一気に行けるように準備しています」と。3軍戦で実戦復帰したのは6月3日。予定よりだいぶ早い復帰に漕ぎ着けたが、この時点で期限まで2ヶ月を切っていた。それでも、仲田選手は「そこはちょっとまだ諦めてないですね。相当活躍して。チーム状況的には(内野手は)可能性低いのかもしれませんが、めちゃくちゃ活躍したら……。諦めずに、今シーズン中に」と大きな瞳で心の底から自分を信じて言葉にした。

 そして、本当に結果を残している。すぐに3軍から2軍へ上がり、今も2軍で打率3割近い数字を残している。ただ、「圧倒的な結果」を求めている仲田選手としては物足りないようだ。

 1試合2安打を放っても、満足するどころか「もう1本打ちたかった。絶対3本は打ちたかった」と悔しがる。仲田選手は「1軍の戦力になれると思われないと(支配下には)上がれないですし、だから普通に1本打ってても、別に使おうとはならないじゃないですか」と1打席1打席、自分にプレッシャーを掛けて、全打席緊張しながら打席に立っているという。「この1打席にかけるみたいな気持ちで。これ打たなかったらもう終わるぐらい、集中力持って」と打席に入る時の心得を語ってくれた。こんなメンタリティだからだろう、試合後はいつも泥だらけでヘトヘトだ。

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 現役時代の長谷川勇也選手が、「代打は崖から飛び降りるような気持ち」と表現したことがあった。置かれた立場や経験は違うが、仲田選手からは長谷川選手のメンタリティに通ずる何かも感じる。

 打撃ではそうやって結果を残しているところだが、まだまだその他の課題もある。先日は、走塁で怒られた。クイックの早くないピッチャーの時にスタートを切れなかったことを割と厳しめに指摘されたという。試合後、小久保裕紀2軍監督からそんな話を聞いたので、さすがにこの日は落ち込んでいるだろうと思って、どんな顔で引き上げてくるのかなと待っていたら、怒られた後なのに仲田選手はむしろキラキラしていた。怒られたことで「よっしゃー! 今日も1つ学んだぞー」と言わんばかりに目を輝かせていた(ように見えた)。本人としては、0-0の6回、先頭打者としてヒットで出塁したこともあり、「絶対アウトになれない」と守りに入ってしまったのだという。ただ、ベンチで指摘を受け、自身の気持ち的な準備不足も認めると、次の打席でもヒットで出塁し、すかさず盗塁を決めた。反省をすぐに生かす男だった。試合中に自らのレベル上げに成功した。

 意欲に満ち溢れ、何でもすぐ吸収しちゃう仲田選手って、やっぱり最強じゃん! 野球の技術云々ではない、天性の“野球小僧感”はなかなか真似できるものではないだろう。支配下登録の条件としては、「1軍の戦力」と認められることが必要。まだまだ発展途上な選手かもしれないが、仲田慶介という男は、明日も明後日も明明後日も確実にレベルを上げてくるはずだ。

 夏場以降、チームとして苦しい時期は必ず来るだろう。なんなら、今も苦しいことはたくさんあるし、勝ちたい。今季こそリーグ優勝、日本一を成し遂げるため……ホークスには素晴らしい選手はたくさんいるが、そのパワーを発揮し続けなければならない。じゃあ、どんな“補強”をしたらいいのか。

 私はこの仲田慶介という選手には、何かを変える力があると思う。一番下から入ってきても、何度怪我をしても、ミスしても、打てなくても、怒られても……いつも変わらない圧倒的“野球小僧感”。周りを突き動かすパワーを持っている。

 落ち込んだり、感情に振り回されることはないのかと聞いたことがあるのだが、「原因を追究して、その日のうちに修正したらもう切り替えるみたいな」と仲田選手は笑った。彼にはそもそも「感情に振り回される」なんて概念はないのかもしれない。明日を迎える前に結果をしっかり受け止めて、また進むのみ! 立ち止まる暇などないのだ。

 自分自身も落ち込んだ時、仲田選手のことを思うと踏ん張れる。「仲田くんだったら、もう切り替えてるだろうな」「仲田くんだったら、つべこべ言わずに次に向けて練習してるんだろうな」と何度もエネルギーを貰った。きっと私だけじゃないはずだ。彼の姿は、日本一を目指すチームにきっと良い影響を与えてくれる。そんな“補強”があってもいいのではないか。仲田選手の支配下登録が叶えば、本当に嬉しい。

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