東芝の経営再建を巡り、7月下旬にも開始すると見られていた国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)陣営によるTOB(株式公開買い付け)が、8月以降にずれ込む見通しとなったと時事通信が報じた。東芝のTOBに関しては、「週刊文春」が7月7日配信のスクープ速報で、2025年度に〝デフォルト危機〟に陥る可能性を示す試算結果をまとめた極秘文書の存在などについて報じていた。
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東芝のTOB成立後の資金繰りを巡り、金融機関が融資の前提としているコベナンツ(財務制限条項)が求める最低預金維持額を大幅に下回る試算結果が、同社幹部の間で共有されていることが、「週刊文春」の取材でわかった。今年6月初旬、島田太郎・代表執行役社長兼CEO(56)らが集まる幹部会議で配布された極秘扱いの内部文書を入手した。コベナンツに抵触した場合、金融機関は原則として期限前でも融資の全額返済が要求可能とされ、東芝はデフォルトの危機に陥る可能性もあり、上場廃止計画の厳しさが浮き彫りになった。
東芝は2015年に発覚した不正会計問題以降、経営の混乱を重ねてきた。2016年には、米原子力子会社ウェスチングハウスに関する巨額減損を計上し、債務超過に転落。2017年には約6000億円の第三者割当増資を実施したが、その際、アクティビスト(物言う株主)の保有比率が高まった。
「以降、東芝はアクティビストとの関係に翻弄され続け、再建戦略の迷走を余儀なくされます。車谷暢昭氏、綱川智氏が立て続けに社長を辞任し、2022年3月、社長に就任したのが、独シーメンス出身で執行役上席常務だった島田氏です。190センチを超える長身で、『私はビジョナリーな(先見性のある)人間』と公言してきました」(経済部記者)
島田氏も就任後、アクティビストの影響力排除を最優先課題としてきた。そうした中、起死回生の策として掲げたのが、株式の非上場化だった。今年3月23日、JIPからの買収提案の受け入れを発表。TOBで非上場化を推し進め、経営の安定化を図るという。
ただ、懸念点も少なくない。JIPによる買収総額は約2兆2000億円規模とされ、うち約1兆4000億円を三井住友銀行やみずほ銀行など、国内5行からの融資で賄う。だが、東芝の再建が難航すれば債務返済が滞り、銀行団の損失に繋がりかねない。そこで時間をかけてまとめられたのが、融資の条件として、一定の預金額の維持など財務健全性を求めるコベナンツだった。