そこからは、いよいよ沢田研二の意図が明らかになっていく。衰えない声量で「サムライ」など渡辺プロダクション時代の超ヒット曲を連射し、独立後の名曲を並べて、最後に「いつか君は」を歌いあげた。長くした白髪を襟元で括ったジュリーはベージュのコードレーンのスーツ姿。大きく揺れる赤い旗を背負うように駆け回り、飛び回り、疾走する75歳だった。
それから長いアンコールに突入する。中洲流(なかすながれ)の長法被を羽織ったジュリーは、「保険証だけは残して欲しい」と彼らしい一言を放ち、音楽劇の共演者たちをステージに呼んで、劇中歌だった「河内音頭」を披露。♪みなさん長生きしましょうね♪と繰り返した。
銀のテープには沢田研二のサインと直筆のメッセージが
瞳と岸部、森本たちが再び登場。小さなバースデーケーキが運ばれて、場内に「ハッピーバースデーの歌」が流れてからも、圧巻のステージは続く。ローリング・ストーンズの「Time is on My Side」と「Satisfaction」に狂喜する半世紀以上を併走するファンたち。その間の1曲が何か、わからなかった。アドレナリンが噴き上げるままに動くジュリーが、この曲だけは立ったままで歌うのが不思議だったが、後にタイガースがファニーズだった頃、「ナンバ一番」のオーディションで歌った1曲、デイヴ・クラーク・ファイヴの「Do You Love Me」だと知った。あのとき17歳だった少年も動かずに歌ったのかもしれない。
アリーナ前方に銀色のテープが噴射された。安井かずみ作詞/村井邦彦作曲の「ラヴ・ラヴ・ラヴ」に合わせて観客が動くと、キラキラと光が散って美しい。再び仲間を紹介したあと、目の周りを赤く染めたジュリーは「じじいでした」と頭を下げ、客席に向かって二度胸を叩いて退場した。銀のテープには沢田研二のサインと、「ありがとう! サンキュー! ありがとうね」が直筆で書かれてあった。
ファンにとってもリベンジライブだった。3時間半に及ぶステージは、スターの56年を鳥瞰する濃密さで、明日も歌い続けていくという決意に満ちていた。ジュリーからファンへの「感謝」だったに違いない。