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「100人以上は公明票がなければ当選できない」岸田自民を揺さぶる創価学会の“喧嘩屋”

赤坂太郎 特別編

2023/07/20
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 事の発端は一票の格差是正に伴う衆院小選挙区定数の「10増10減」だ。選挙区は地方が減り、公明党が得意とする都市部で増えた。

「10増10減は30年に一度のチャンス」。94年に小選挙区比例代表並立制導入が決まって以来の好機として、公明党は増員都県での新たな候補者擁立を目論んでいた。背景には、「最強の選挙マシーン」と称される公明党の支持母体の創価学会が、高齢化の煽りで集票力が低下していることがある。昨年7月の参院選の比例代表で獲得した票数は618万票で、一昨年の衆院選から100万票近く減少。ただ参院選では7選挙区の公明候補者は全員当選した。選挙区では「与党候補」として戦えることから「保守層や政権支持層の票を取り込みやすい」(公明党選対幹部)とのメリットがある。組織力が低下する中、選挙区への積極的な擁立で政治的影響力を温存する狙いだ。

小選挙区を取りたい公明党

 さらに、自民党との選挙協力を巡っての公明・学会の不満も背景にある。前回衆院選で自民党が小選挙区189議席だったのに対し、公明党の小選挙区は9議席にとどまる。学会内には「公明党の小選挙区が少なすぎる」との声が根強い。

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「次の衆院選では比例より小選挙区を重視している」。参院選直後に学会会長の原田稔が茂木と会談し、増員都県での新たな候補者擁立を打診している。選挙区が減る地域の多くは自民党の議席で、自民だけが割を食うことになり、茂木も「簡単な話ではないですね」と言葉を濁した。

茂木敏充幹事長 ©時事通信社

 公明党が狙いを定めたのは「東京、千葉、埼玉、愛知の計4選挙区」(選対委員長の西田実仁)だ。まず動いたのは東京だ。昨年暮れには、学会総東京長でもある主任副会長の萩本直樹が、自民党東京都連会長を務める政調会長の萩生田光一に会い、衆院議員の岡本三成を旧東京12区(北区、足立区西部等)から公明支持層がより強固な東京29区(足立区西部、荒川区)にくら替えさせる方針を説明した上で、東京での新たな候補者擁立の容認を要請した。政治的な動きをしない萩本が出張ってきたことからも学会の本気度が窺える。その後は西田が森山裕と選対委員長同士で調整を続けることとなった。

 ただ公明党としても自民党現職がいる地域を押しのけてまで擁立するのは憚られる。空白区とされる元首相の菅直人の地盤である武蔵野市などの東京18区や府中市などの東京30区なども候補に挙がったが、公明党支持層が弱い。2月中に公明党支持層が比較的厚い練馬区東部の東京28区に照準を合わせた。

 これに先立つ1月25日、公明党は予告通り、東京29区への岡本擁立を発表。公明党は発表を茂木や森山には連絡したが、東京都連への根回しが不十分なままで、都連関係者は「12区で応援していた自民党の人を見捨てるのか」と反発した。

 2月27日。原田から選挙実務を一任されている副会長の佐藤浩は、首相官邸に近いキャピトル東急に茂木、森山を呼び出した。埼玉14区(草加、八潮、三郷市)に幹事長の石井啓一、愛知16区(犬山、江南、小牧、北名古屋の4市、西春日井、丹羽の2郡)に政調会長代理の伊藤渉を近く公認発表することと、東京28区、千葉14区(習志野市、船橋市東部)でも擁立したい旨を伝えた。「原田会長の意向でもあり、学会の総意です」と付け加え、譲る意思がない姿勢を強調した。予告通り3月9日に石井と伊藤の公認を発表した。(文中敬称略)

月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」全文は、「文藝春秋」2023年8月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

「100人以上は公明票がなければ当選できない」岸田自民を揺さぶる創価学会の“喧嘩屋”

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