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吾朗のデビュー作『ゲド戦記』は父から酷評を浴びる

 父と子の話といえば、どうしても宮崎駿と吾朗の関係を想起してしまう。ドキュメンタリー『NHK ふたり/コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗』は、父子の葛藤を克明に映し出している。

 そもそも子煩悩な父親だった宮崎駿は、幼い吾朗を喜ばせるためにアニメを制作するほどだった。それが『パンダコパンダ』(72年)である。ところがアニメーターとして名を馳せるようになると、多忙のあまり家に帰ってこれなくなり、宮崎家は実質母子家庭になる。

 吾朗は寂しさを埋めるように父親と同じアニメの道を志望するが、母(彼女も優秀な元アニメーターだった)の反対に遭って断念。いったんは別の道を歩むが、三鷹の森ジブリ美術館の館長を経て『ゲド戦記』(06年)で監督デビューを果たす。父の反対を押し切ってのデビューだった。だが、父は試写の途中で退席、デビュー作は酷評を浴びる。

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 宮崎駿が『コクリコ坂から』の映画化を企画したのは、かつて原作を愛読していたためであり、息子に父子の話を作らせるためではない。だが、吾朗は監督としてこのテーマに向き合い、苦難の末に作品を完成させる。今度は、父は試写で席を立たなかった。プロデューサーの鈴木敏夫によると、宮崎駿は自分の脚本にはなかったクライマックスの場面で泣いてしまい、試写の後、目を真っ赤にしていたという(『風に吹かれてII スタジオジブリの現在』中公文庫)。

『コクリコ坂から』の企画・脚本を担当した ©文藝春秋

 海と俊は出生の真相に立ち向かい、実はふたりの父親は異なっている人物だと判明。亡くなったふたりの父親の親友という人物と邂逅し、父親の思い出を聞いて、それぞれが涙を流す。ラストシーンで海は晴れ晴れとした表情を浮かべて信号旗を掲揚しているが、その姿はジブリで悪戦苦闘しながら父親の後を追って、アニメ映画の制作に立ち向かった吾朗監督とどこか重なる。

ジブリと徳間康快

『コクリコ坂から』には、物語の中盤から後半にかけて、非常に存在感の強い人物が登場する。それが海たちの通う港南学園の徳丸理事長(演:香川照之)だ。

「コクリコ坂から」より。徳間社長がモデルとなった徳丸理事長。香川照之が声優を務めた ©2011 高橋千鶴・佐山哲郎・Studio Ghibli・NDHDMT

 徳丸理事長のモデルは、徳間書店社長の徳間康快である。徳丸は新橋にある出版社を経営しているが、これは徳間書店とまったく同じ。見た目もそっくりに描かれており、香川は徳間の映像を見て話し方を研究した。