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山上被告、全1364件のツイートを分析 浮かび上がる「なぜ母でも教団関係者でもなく、安倍元首相だったのか」

source : 提携メディア

genre : ニュース, 社会, 読書

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ジョーカーに自分を「仮託」した

だが、本書は見事に欠けたピースを埋めてくれる。

山上被告が犯行に及ぶきっかけとなったのは、欠勤するうちにいよいよ金銭的に立ちゆかなくなり、拳銃を製作した部屋の立ち退きが迫り、クレジットカードも止められそうになっていたからだという。山上被告が守りたかったものの一つは、彼自身の人間としての尊厳であるように思えてならない。(中略)そのプライド、すなわち人としての尊厳が踏みにじられ奪われることになるとしたら、まだ人間の尊厳がギリギリ保たれているうちに自分のプライドを剥ぎ取ろうとしているわれわれの生きる社会構造に対して一矢報いようとするのは、人によってはきっと自然なことなのだろう。(P.138「第二部 山上徹也、あるいは現代日本の肖像」五野井郁夫)

裕福で知的レベルの高い家庭で育ちながら、父の自殺、母の新興宗教への傾倒、経済理由による大学進学の断念、窮乏を理由とした実兄の自殺と、家族によって自分の人生の芽をことごとく踏み潰され、社会によって魂の生皮をゆっくりと剝がされていった山上徹也。

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彼が「silent hill 333」としてツイートを始めたのは、映画『ジョーカー』を2回見、韓鶴子・旧統一教会総裁の来日公演に火炎瓶を持って行ったものの厳しい警備を前に諦めた日から、ちょうど1週間後のことだ。山上は映画『ジョーカー』の主人公・アーサーに対して共鳴とも呼んでいい感情をツイートに吐き出している。

十分なインテリジェンスと身体能力と客観性を持ち「こんなもののために生まれたんじゃない」と感じる彼にとって、残れる最後の尊厳とは「自室で秘密裏に制作した手製銃を撃ち放って、旧統一教会との政治的癒着に甘んじてきた三世政治家に自分の人生の責任を取らせる」ことだったのかもしれない。銃弾ははっきりと日本憲政史上最長政権の元首相に向けて発射され、確実にその命を奪っていった。