※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2023」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。
【出場者プロフィール】南別府 学 読売巨人軍 42歳。
東京生まれの松坂世代で、スポーツ関係のデザイナー。学生時代は巨人が負けると少食になるほどの熱烈なファンだったが、仕事に追われ一時は野球と疎遠に。近年は野球熱が再燃し、日々ジャイアンツノートを記録している。文春野球フレッシュオールスター3度目の出場で、上位進出を狙う。
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いきなりだが、蛇の心臓を丸呑みしたことはあるだろうか?
プロ野球にはかつて“ゲテモノ食い”で話題になった選手がいる。ワニ肉が好物で「ワニ男」と呼ばれていたパリッシュ(1989年ヤクルト、1990年阪神)。ミミズを踊り食いし、アリやセミを食べた経験もあるハドラー(1993年ヤクルト)……。
当時、珍品料理を食すバラエティ番組が人気だったこともあって、野球での活躍以上にゲテモノ食いの経験がフォーカスされた選手だ。
あれから30年。コオロギ食が話題になるなど、ゲテモノ料理が再注目されつつある昨今。ジャイアンツのドラフト5位ルーキー・船迫大雅投手が入団後に発した言葉は、野球ファンを大いにざわつかせた。
「僕、蛇の心臓を呑んだことがあります。丸呑みです」
「呑み込んだのは2回」と衝撃の発言
昨オフのドラフトで西濃運輸からジャイアンツに入団した船迫は、サイドから投げ込む直球が武器の変則右腕だ。名字の船迫は全国におよそ660人しかいない珍名。“フナサコ”と読みたくなるが“フナバサマ“と読む。
小学生の時「強いものの心臓を呑んだら強くなる」という祖父の教えを信じ、2度蛇の心臓を呑み込んだという。
蛇は古くは結核の特効薬として肺病に効くと信じられてきた。また、脱皮を繰り返し無限に成長していくイメージから、金運や知恵を授ける縁起物としても根強いファンを持つ。
その一方、見た目の奇妙さから蛇を忌み嫌う人は多い。
心臓を丸呑みした張本人である船迫も、当初は蛇を「気持ち悪い」と感じていたという。しかし、次第に「かわいいな」と感じるようになり、ついには家で蛇を飼い始めた。
ルーキーながら開幕戦でプロ初登板を果たした船迫は、ドラゴンズの4、5、6番を3者連続三振に打ち取る最高のデビューを飾った。
初登板とは思えない落ち着きぶりは、蛇の心臓を丸呑みした効果を感じずにはいられなかった。
蛇の心臓を丸呑みすれば気弱な私も変われるのでは……私は安易すぎる考えに思い至った。
蛇の心臓を求めて蛇料理店へ
私は気弱なことで常に周囲に舐められている。
取引先の若手社員にタメ口を利かれることは日常茶飯事だし、会社の後輩に業務連絡LINEを既読無視されることもある。
それでもいつもヘラヘラと笑ってやり過ごしていた。
そんな弱い自分に嫌気が差す。気弱な性格から蛇のように脱皮し、新たな自分と出会いたい。そのためには蛇の心臓を丸呑みするのが一番の近道のように思えた。
気が弱いため有給を取ることさえままならない私だが、蛇の心臓を丸呑みするためだけに有給を取り、蛇料理店に向かった。
ちなみに私自身、蛇は大の苦手である。まさか蛇の心臓を丸呑みする日が来るとは思わなかった。
「蛇の心臓丸呑みできますか!?」
店に入るなり目的を伝えると、店内に緊張が走る。
「呑みたいならできますが……」
店主は訝しみながらもそう言ったので私は迷わず着席した。
「撮影はNGで」
蛇をゲテモノ扱いされたくないため、写真撮影は断っているという店主。その姿勢に強い信念を感じる。蛇の心臓の味を知る者はやはり強いのかもしれない。
私はカメラを起動していたスマホをそっと鞄にしまった。
店主が目の前で蛇をさばき始める。
マムシやシマヘビ、アオダイショウなど時期によって食べられる種類は変わるというが、今回私が頂くのはヒメハブ。アナコンダ級の大物の心臓を狙っていたが、やや小さめの心臓を頂くこととなった。
蛇をさばく店主と私が1対1で向かい合い、緊張感が漂う中、蛇の心臓の到着を待った。