実際に呑み込んでみた結果……
食前酒として出された蛇の生き血の中に早速心臓はおさめられた。かつては心臓の悪い人には心臓を、目の悪い人には目玉を……といった具合に提供していた時期もあったが、今では客が希望しない限り心臓や目玉を提供することはないらしい。
店主は生き血に投入する前の、ドクンドクンと脈を打つ蛇の心臓を見せてくれた。
「こ、これを船迫は子供の頃に呑んだのか……」
幼少期の船迫の勇気に、将来プロ野球選手になる資質を感じずにはいられない。
葡萄酒と2:1で割られた蛇の生き血は、私の目の前で搾り出された。肝と一緒に投入された直径1cm程の蛇の心臓を生き血と一緒に喉に一気に流し込む。
「ぷはー。休みの日の心臓最高!」とはならないまでも、クセがなく、決して飲み辛い印象はない。
その後に蛇のすり身を揚げたものも食べたが、私は蛇の心臓を丸呑みした達成感で満たされていた。
心臓を丸呑みして気づいた大切なこと
人は年齢を重ねるごとに“同じこと”を選択してしまいがちだ。私も年々その傾向が強くなり、閉塞感を感じ始めていた。
しかし、蛇の心臓を丸呑みしたことにより自分の中の霧が晴れた。
「未経験のことや苦手なことから逃げてばかりいるから、君の人生は面白くないんじゃないか? 喝だ!」
自分の中の“リトル張本勲”にそんなふうに雷を落とされた気がした。
船迫に導かれて呑んだ蛇の心臓だったが、思いがけず今後の人生の可能性が広がった気がする。蛇の心臓を丸呑みしてからというもの、LINEを既読無視された後輩にスタンプを連打するなど、少しずつ勇気が芽生え始めている。気弱な自分ともおさらばできそうだ。
心臓を呑んだ仲間として、船迫のこともますます応援していきたい。
さて、次は何の心臓を呑もうか。
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