一週間後、都内のイタリアンレストランで対面した。チェックインカウンターで待っていると、写真の倍くらいに成長した自称・アイドルが現れた。ゆったりした服を着ているが、腰を曲げると裾から腹の白い脂肪がはみ出る。
「コロナ太りしちゃいました」
ニコニコ顔で言った。見たところ、一週間で太れるレベルではない。
「今日は牛さんを食べちゃおうかな……」
メニューで野菜、魚、チキンを選ぼうとすると、彼女は表情を曇らせた。
「私……、今日は牛さんを食べちゃおうかな……」
うん? アプリでのやり取りとは話が違う。野菜と魚とチキンしか食べないはずだったが。
「牛と豚はやめているんじゃないの?」
大きな身体を前に心配になり、聞いてみた。
「たまにはいいかな、って思ってきちゃった」
そう言って、サーロインステーキを選ぶ。ビーフだ。目の前で彼女は気持ちいいくらいの食欲を披露した。ワインもカパカパ飲む。彼女いわく、ふだんは朝から夜まで自宅にこもってお菓子ばかり食べているそうだ。あとは友達と電話で話すだけ。実質的には無職だ。
二年前まではライヴハウスで歌っていたという。事務所にも所属して、インディーズでCDのレコーディングもしたらしい。しかし売れず、コロナ禍に事務所から解雇された。事務所の社長には、体重を15キロ減らしたらまた契約してもいい、と言われている。しかし、体重は増える一方。復帰への道は遠い。
食事中、彼女のスマートフォンに保存されているアイドル時代の写真を見せられた。ふつうにかわいい。身体のサイズはまったく違うが、目の前にいる彼女と別人でないことはわかった。
会話はまったくはずまなかった。共通の話題がなにも見つけられないのだ。もう会うことはないと思った。ところが、毎日連絡が来る。また会いたい、と言ってくれる。積極性に負けて、会ってしまう。また会話のはずまない、不毛な食事をして別れる。
彼女が魚やチキンを食べることは一度もなかった。脂の乗ったビーフをガンガン食べる。ワインも飲むし、食後には大きなケーキもオーダーした。
「15キロ減らすんでしょ?」
一応確認してみる。